法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『モンスターズ/地球外生命体』

今年公開の最新『ゴジラ』を手がけたギャレス・エドワーズ監督が、2010年に撮った初めての長編映画
7月23日公開 映画『モンスターズ/地球外生命体』公式サイト
地球外から来た巨大生物がはびこり、荒廃しつつあるメキシコ。現地取材していたカメラマンが、上司から指示され、社長令嬢の米国への脱出を助けることになる。
130万円で制作されたという謳い文句だが、実際の総製作費は4000万円ほど。それでもVFXを多用した映画としては極めて低予算といっていい。


モンスターの存在はほとんど描かれない、終末世界物とロードムービーを組みあわせた内容。一面の廃墟や朽ちた兵器を横目に、貧しい社会と美しい風景を切りとりながら、ゆるやかな旅路が描かれる。
それぞれパートナーがいるのにひかれあっていく主人公男女には好感がわきにくい。ちょっと心情が変化しただけで全てを投げっぱなした結末も釈然としない。しかし米国までの道行きは飽きずに楽しむことができた。小さな問題と解決をおりまぜながら、すぐ近くに存在する危機を暗示させ、緊張感をたもちつづける。
米国が国境につくっている巨大な壁や、それでもモンスターに侵入されている展開で、直前から連載開始していた漫画『進撃の巨人』を連想したり。もちろん斬新な設定というわけではないが、ちょっとした時代性を感じた。こちらは爆撃する政府こそモンスターだという批判があったり、追悼のための蝋燭をヘリコプターが吹き消したりと、厭戦的なところが対照的で興味深い。
あと、タイトルのわりにモンスターの描写量は少ないと聞いていたが、期待しすぎなかったおかげで意外と楽しめた。あくまで主人公まわりの等身大な出来事とはいえ、中盤や終盤には、それなりの残酷描写や恐怖演出もある。


そして物語が弱いかわり、架空紀行映画として映像の満足度は高い。廃墟となった都市、閑散とした港町、夕焼けにそまる川面、異生物のはびこる森林、瓦礫となった住宅地……さまざまな場所が朽ちている様子を生活感たっぷりに描いていた。
大きな動きがないこともあって、期待以上にVFXが多用され、しかも精度が高い。おそらくVFXだろう戦車は薄っぺらくないし、セットかロケかわからない廃墟群もまずまず。VFXのクオリティにとどまらず良かったのが、川を移動する途中の物体。水面を移動する三角形が、意外な正体をあらわにする。水場とは最もほどとおい印象の存在、それが水面下から登場する異常さで、事態の深刻さを見事に表現した。
モンスターの複数形態も、異質な生命体を観察するよう細やかに描写され、知的好奇心を疑似的に満たす。その各形態が物語展開に結びついたなら、より良かったのだが。ほとんど全身像が映らず、出ても夜間ばかりなのは残念だったが、予算を考えるとしかたないか。
公式サイトによると、予算を抑えるためか主役以外は地元住民を使って、即興演出を多用したという。それで楽しめるのは人物演出が巧みということなのだろう。