法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』

さまざまな超常能力をもつ人々NEXTがいる世界。さまざまな都市でNEXTがスポンサーと提携してヒーローになり、治安維持を競うリアリティーショーが放映されていた。
ロートルヒーロー虎徹は能力低下にともなって降格。パートナーのバーナビーとともに2部リーグで奮闘していたが、企業買収のため1部リーグ復帰という可能性が生まれる……


2011年のTVアニメ『TIGER & BUNNY』の後日談を完全新作で描く、劇場版2作目。
TIGER & BUNNY(タイガー&バニー)
TVアニメ最終回で謎のまま残された敵組織ウロボロスについては解明せず。移籍ヒーローや複数のヴィランといった新キャラクターを使い、あくまで1本の娯楽作品としてまとめていた。
メインスタッフは劇場版1作目から続投。共通認識がとれているおかげだろう、演出家や作画監督が多めでも、全体の統一はとれていた。デフォルメ演出を好む米たにヨシトモ監督だが、今作ではキャラデザインから演出までリアルに寄せ、ていねいに作品世界を構築していた。


まずTV版だが、リアリティーショーや複数ヒーローといった設定の可能性を見せてくれたが、活用しきれていなかった。
それを1作目では完成度の高い序盤を主軸に編集し、設定を活用したアクションを新しく展開。肩の力を抜いた作品にしあげた。
『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』 - 法華狼の日記
そして2作目では移籍ヒーローと企業買収から始まり、TV版の初回で描かれたような職業としてのヒーロー像を掘り下げた。
求めたものが見られた1作目に対して、求めたものの発展が見られた2作目といったところか。


今回の物語は、伝説に見立てた人為事故が連続し、その犯人像で興味を引きながら進んでいく。このサスペンス展開は西田征史が制作中に推理ドラマ『実験刑事トトリ』シリーズを手がけていたからだろうか。面白い謎解きがあるとまではいかないが、細かい台詞で小さな伏線がはられ、事件をめぐる人間関係や動機が無駄なく構築されていた。
そうして描かれるのは、力が衰えつつあるロートル、もがいている人気下位、傲岸不遜な移籍ヒーロー、悩みながら進む若者といった、さまざまな立場の苦しみや迷い。自己をふりかえる描写で人物紹介を自然にこなしながら、自分を信じ他者を許すことを力強く肯定していく。
その展開の象徴となる、セクシャルマイノリティのヒーロー「ファイヤーエンブレム」が特に素晴らしい。TV版から1作目までは、肯定的ではあるがステレオタイプなゲイキャラにとどまっていた。しかし今作では、NEXT攻撃によってトラウマを呼びさまされ、差別を受けつづけた過去に向きあわされた。そうして自分自身の影に責められながらも、自己を受けいれて再起してみせる。
その「ファイヤーエンブレム」の再起するきっかけが、男装の少女ヒーロー「ドラゴンキッド」の叫びという展開も良い*1。気高く生きている「ファイヤーエンブレム」は、ジェンダーを外れた人々にとっても「ヒーロー」なのだと感じられた。


前後するが、虎徹を追い出すかたちとなった傲岸不遜な移籍ヒーローが、案外と憎めないところも良かった。活躍が描かれてもストレスがたまらないし、悪人を追い出せば虎徹が帰ってくるという単純な状況ではない。
だからこそ、ふたたび戦場に戻ろうとする虎徹に対して、ヒーローとしての理想と現実が改めて問われ、その答えを貫くように最終決戦になだれこむ。その決戦を前にして、コンビの一方であるバーナビーも、自分の対となる敵との戦いで自己を貫くことを宣言する。
複数ヒーローが戦いに参加して大味になりかねないところ、アクションとしては複数ヒーローを活躍させつつ、きちんと主人公コンビのドラマで幕を閉じてみせた。


もちろんアクションも充分な質と量で文句なし。
等身大ヒーローの特性を使った格闘戦はもちろん、建造物内に侵入する機械の敵や、大規模な事故の救出劇といった多彩なシチュエーションを用意している。3DCGが得意とする縦横無尽なカメラワークを、ビル街の追跡劇と決戦の多対一とで異なる活用をしていたことも、変化を生んで満足感を増していた。


ほとんど娯楽作品として完璧で、はっきり駄目と感じるところが見当たらない。
各要素がTV版から向上しており、残してほしかった描写もほとんどある。もっと敵をほりさげる作品が好みではあるが、物語の主軸がぶれなかったのは敵に重心を置かなかったおかげだろう。それにTV版や1作目に比べれば、2作目は対立者の事情や心情もしっかり描いている。
あと、しっかりEDクレジットのコンテと演出に北村真咲の名前があったことには、作品を超えた感動があった。

*1:TV版のエピソードはジェンダーのあつかいが甘かったと思うが、その時点でも対比関係ではあった。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20110601/1306945947