法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『豚と軍艦』

1961年の今村昌平監督作品。在日米軍のいる横浜で、娼婦として生きるしかない女性や、養豚しているヤクザ組織の騒動を描く。
しっかり今村監督と意識しながら作品を見たのは初めて。かなり以前に映画『黒い雨』を見たはずなのだが、記憶に残っていない。脚本作品ならば最近にいくつか見たのだが。


物語は、何を見せたいのか中盤までよくわからず、楽しみにくかった。ヤクザや娼婦の日々が断片的に見せられるが、関連性がなさすぎて、街を舞台とした群像劇といった感じでもない。登場人物も多すぎて、途中まで人間関係も記憶できなかった。
ヤクザが豚を一財産と見なしているという物語の根幹も、アンリアルな寓意なのか、当時なりのリアルなのか、よくわからなかった。
そこまでで面白かったのは、簀巻きにして海に流した死体が流れつき、しかたないので豚の厩舎に隠した顛末くらい。


しかし映像面では、中盤まででも面白いところがあった。
たとえば64分くらい、病気に絶望したヤクザが線路へ飛び出したが、死に切れなかった場面。このカットまで巨大看板の正体は伏せられている。

たとえば68分くらい、酩酊した米兵3人に部屋へつれこまれた場面。ベッドの上に投げ出された後は、真上の俯瞰からのみ撮影することで、観客の欲情をさそわず、陵辱の醜悪さだけを抽出する*1

いわゆる映像美ではなく、物語の意図を言葉ではなく絵として見せる良さ。


そして終盤、ヤクザな連中の大立ち回りが描かれる。トラックによるカーチェイスや、繁華街を舞台とした戦いは、予想していたより活劇として楽しめた。
その派手な戦いの争奪対象が、ただの豚という間抜けさも面白い。その豚の群れが流れるように去っていくクライマックスの、バカバカしい映像も印象的だった。
人間関係がわかるまで時間がかかってしまったが、どうしようもない人々のむなしい顛末を描いた娯楽活劇として、最終的には満足できた。なるほど巨匠だったのだな、と思う。

*1:時計じかけのオレンジ』の早回しみたいな規制の意図があるのかもしれないが。