豊臣秀吉の小田原攻めにまつわる史実にのっとった歴史劇。石田三成がひきいる20000の軍勢と、小さな城にたてこもる500の軍勢の戦闘を描く。
原作小説はもともとコンテストで賞をとった映画脚本だったが、映像化するためにはいったん小説化してベストセラーになる必要があったという*1。
いつかDVDかブルーレイで見ようかと思っていたが、5日にTBS系列でTVスペシャル放映していたので、それを視聴した。宣伝番組で見かけた水攻めカットがいくつか存在しなかったが、冒頭でテロップが出ていたように、やはり地上波放映のため削除されたのだろうか。
あくまで当時の知見の範囲で戦ったり妥協しつつ、現代の観客としても納得できる経緯で戦闘が描かれ、当時なりの結末にちゃんと苦痛と限界を指摘しつつ物語が閉じた。攻城戦を描いた最近の実写邦画としては、見せ場たっぷりで楽しめたし、題材とした史実も面白いと思う*2。
しかしキャラクター描写は、単独監督だった樋口作品よりは俳優をコントロールできているものの、特筆して良いともいいにくい。それも俳優の演技そのものより、映画の視点に問題があったと感じた。
たとえば主役を演じる野村萬斎は、さすがクライマックスの田楽は良かったものの、わりと戯画的に描かれている周囲と比べても温度差がありすぎる。アニメやマンガのような抽象度の高い媒体でないと、この主人公像では演技が大袈裟なだけにしか見えない。もっと無感動な浮世離れした性格として描くか、異常な人格とわかるようにカメラを引いて映してほしかった。
対する石田三成は逆に、関ヶ原で大敗する未来を誰もが知っている。劇中でも複数の知将が石田に軍事的な才能がないと評している。そのため軍勢の数だけ多くてもさほどの緊迫感が生まれない。これも石田三成の周辺にカメラを置くのではなく、補佐して知恵をまわしている大谷吉継か、しいられて前線で戦っている兵士によりそうべきだったと思う。
全体的に、主要なキャラクターについては、もっとつきはなして描くべきだと感じた。
映像面では、北海道につくられた巨大なオープンセットが見せ場をつくりだして、共同監督の樋口真嗣らしいVFXカットは補佐にとどまっているが、それが逆に良かった。細かくカットを割り、敵味方が泥まみれとなって、流血も逃げずに映す肉弾戦の迫力。状況が動き続けるので、中だるみするような場面がほとんどない。
一方、冒頭の豊臣秀吉による水攻めなどのVFXは、いささか派手な絵を好む樋口監督の悪癖が出ていて、史実にもとづいた作品を支えるほどのリアリティがない。背景も全体的にマット画っぽく静止していて、照明も良くないのか、手前の人物が浮いてしまっている。忍城における水攻めはさすがにミニチュアを併用しながら良い絵を見せるが、東日本大震災のからみもあって、期待したほどの物量がない*3。
*1:http://www.cinematoday.jp/page/N0052716
*2:このあたりの歴史は全くくわしくないので、考証の正確さについては判断できない。石田三成は実際には水攻め批判派だったという説を聞いたことがあるくらい。気になる部分は、意図的に現代的にしたと思われる台詞回しくらいしかなかった。
*3:映像ソフトで全長版を視聴すると評価が変わるかもしれないが。