元日スペシャルの脚本は、2時間SPを手がけるのは珍しい太田愛。番組サブタイトルには「狙撃容疑者特命係・甲斐享を射殺せよ!」という副題もついている。
このシリーズの2時間SPは1時間の本編をひきのばしたような回ばかりという印象が多い。しかし今回は普段の相棒2人をひきはなし、それぞれ爆弾魔に脅迫されている若者と、熱心に協力してくれる公安部部長を今回だけの相棒として、長尺ならではの多視点で事件を追っていく。さらにタイムリミットサスペンスの要素もあるため、中だるみせずに楽しむことができた。
細かい部分でも出来が良い。脅迫にまきこまれて爆弾魔の目的をさぐっていく視点と、残された手がかりを追っていく視点で、二重に説明されるおかげで状況がわかりやすく、激しいアクションと慎重な捜査の両方が交互に楽しめる。特に、視点がふたつあることを利用した最後の罠と、かすかな説明のズレが手がかりとなる部分で、本格ミステリとしての楽しみもあった。
なぜ主人公2人の一方がまきこまれたのかというところなど、いくつか強引に感じるような部分も偶然で終わらせず、まずまず必然性のある経緯や理由を最後に示す。サブキャラクターの見せ場も、きちんと本筋にからみながら主人公を食わないという必要充分ぶり。
映像も全体として悪くない。普通の街角に交番セットを置いて爆破する発端からして良い見せ場だし、係留されている船倉や廃墟といった空間を行き来して、長い時間と距離をひっぱりまわされたことが視覚的に表現されていた。
ただし最後の謎解きは、留置所で長々と自白する犯人をクローズアップで映すだけというつまらなさ。歌舞伎俳優っぽい演技の面白さもないではなかったが、それをドラマの面白さとして評価していいか悩む。
社会派な動機そのものも、現代において切実な問題であってドラマの題材に選ぶこと自体は素晴らしいが、大がかりサスペンスとの食いあわせが悪い。物語の根幹として必要な部分はジャーナリストが秘密をつかむところだけで、その秘密の内容はいくらでも代替が可能だ。
サスペンス重視な今回の脚本ならば、いかにも公安がでばってきそうな別の秘密を動機にして、今回の秘密は違う物語の動機にまわすべきだったんじゃないかな、などと思った。