法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『キューポラのある街』

埼玉県川口市を舞台にした1962年の日活映画。吉永小百合演じる少女を中心にしつつ、貧しい人々の悲劇を前向きな人情劇として描いている。けっこう刺激的な場面もあり、物語が動き続けるから、人情劇が苦手な私でも飽きずに見ていられた。
クレーン撮影で街の全景をおさめたカットが多く、その他のカットも圧倒的な空間の広がりと奥行きが描かれていた。吉永小百合が関わらない場面も多く、どちらかといえば群像劇であり、事実上の主人公は発展途上の街といったところか。
北朝鮮帰還運動が描かれていると聞いていたが、あくまで貧しさをかかえた人々の視線でのみ描かれており、当時の社会状況を追認しているといった程度。北朝鮮は貧しい在日朝鮮人にとっての希望にすぎず、同時代における楽園と描いているわけではない。ビー玉もない発展途上の存在と子供たちにすら思われている。事実上の棄民政策を前向きに描いていることも事実だが、当時の日本政府やマスメディアが推進や推奨した範囲を超えてはいない。劇映画に刻まれた主観的な真実の記録としては興味深かった。