法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『革命機ヴァルヴレイヴ』2ndシーズン第21話 嘘の代償

……これは神回と呼んでいいのではないか。
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過去に見たTVアニメで最も印象の近いものをあげると『ラーゼフォン』第19楽章「ブルーフレンド」だ。
物語展開としては、逃げ出すところや仲間同士で攻撃しあうという構図くらいしか似ていない。映像表現としても、衝撃的な場面に直喩を多用した「嘘の代償」と、隠喩を多用した「ブルーフレンド」の印象は異なる。
しかし両作品ともシリーズ全体の印象は似ていた。映像は一見すると華やかだが統一感が少なくて、情報の開示が遅くて、伏線の印象づけが不充分。さらにメインキャラクターが秘密をかかえたままドラマが進行し、しかも人格がSF設定でゆがまされるため、視聴者は感情移入できないのに制作者だけ納得しているという温度差があった。


「ブルーフレンド」と「嘘の代償」が似ているのは、シリーズ全体から見た立ち位置だ。
放置されていた設定へ物語における意味が与えられ、よくある小道具が意外な効果をあげ、つみかさなっていた疑問点にいくつか回答が与えられ、特権的にふるまっていた主人公が批判される。なおかつフォローだけで終わらず、クライマックスで個人のドラマに収束し、ドラマとしても見やすくなっている。
それでは「嘘の代償」の展開を細かく見ていこう。


まず、主人公勢力を助けようと会談した合衆国の大統領が、敵対する連邦が情報を開示したのを受けて、あっさり主人公と敵対する。主人公の仲間が不死能力を持つマギウスということを映像で見せられたためだ。側近はとまどっているのに、主人公たちへ攻撃するようにも命じる。
これだけならば大統領の心変わりが早すぎるのだが、実際は前期の終盤と今期の序盤で、大統領と敵総統がどちらもマギウスと関係をもっていることが描かれている*1。もともと内通していた相手だし、不都合な存在として主人公勢力を切り捨てる選択も自然なのだ。ここで大統領と総統が内通していたことを、もっと良いタイミングで見せていれば、より視聴者が納得できただろう。


次に、マギウスということを隠していた主人公は、好きあっていた少女ショーコを救いにいく。ここでうまいのが、マギウスになった主人公たちは戦うことで記憶を失っていくという設定だ。これまでは自己犠牲で戦いながら大切な記憶をなくしていくという、定石とも平凡ともいえる展開ばかりだった。特に、初めて明確に記憶をなくしながら戦った少女マリエはもともとの出番が少なめで、マギウスということが明かされた直後に戦死したため、感情移入しにくかった。
しかし今回、ショーコに問いただされた主人公は、肝心な場面で記憶がぼやけて口ごもり、決定的に信頼を失ってしまう。それまで主人公とショーコの思い出がリフレインされ、感動的な描写につなげそうな気配があったから、ここは意外かつ効果的だった。


そして合衆国と連邦の総攻撃がはじまろうとする時、主人公の先輩キューマが立ち向かう。仲間からも切り捨てられかけたのに、全てを救おうと奮闘し、ショーコとよりをもどすよう主人公にいう。前期の序盤で、ひとりの少女アイナに思いを伝えられないまま死に別れたことが、ここにきて意味をもった。
もともと主人公とショーコは感情移入しにくいキャラクターだった。特にショーコは本能のままに動いて人気を集め、危機を偶然と人脈で乗り切り、主人公勢力の指導者となった、あたかもポピュリスト政治家のような人格だ。主人公も優柔不断と決断主義をいききして、性格につかみどころがない。しかし主人公とショーコを応援できなくても、主人公とショーコをキューマが応援する心情は理解できるから、感情移入できなくても画面を見ていられる。
さらに、ドラマの余剰となりかねないメインキャラクターが、拘束されたり挫折したりして一時退場していることも良かった。主人公側で能動的に動けるキャラクターをキューマひとりにしたことで、ドラマの流れが追いやすくなっている。


最後に、主人公勢力においてマギウスは「カミツキ」と呼ばれている。あたかも吸血鬼のようだからという意味ではなく、神が憑いているという意味でアイナが名づけたのだ。
良くも悪くも少女らしいネーミングセンスだが、今回になって神のようにふるまおうとするキューマを支えるレトリックとなる。これもまた、ネーミングやレトリックそのものはつたなくても、キャラクターがそう思うという背景は理解できるから、画面を見ていられた。
なお、「神回と呼んでいいのではないか」と思ったのは、ここで神にまつわるレトリックが出てきたためである。


正直にいって、こういう展開をクライマックスにもってくるなら、シリーズ全体の構成をもっと整理できただろうとは思う。
前後の展開と密接につながっているから、独立して楽しむことも難しい。他の感想を見ても、『ラーゼフォン』が「ブルーフレンド」と「子供たちの夜」だけ評価が高かったようなわけにはいかないようだ。
それでも今回は、見ていて物語に感心した。感動というのとは少し違うにしても。

*1:正確にはもう少し複雑なのだが。