法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『別冊映画秘宝 世界怪獣映画入門!』

キング・コング』誕生80周年の今年5月に出版された、海外映像作品の怪獣を主軸にしたムック。
メインライター岸川靖の怪獣への偏愛が強くて、対象と冷静な距離感がとれていなかった感もところどころあった。良くも悪くも、類書より手づくり感のある内容。
もちろん既知な情報や作品名も多い。しかしモンスター造形家や海外コレクターといった、類書ですらとりあげないような人物へのインタビューも多く掲載されており、雑誌化する前の『映画秘宝 あなたの知らない怪獣マル秘大百科』と充分な差別化がなされている。


以下、雑多に印象に残った記事ごとの感想を書いておく。
読みごたえがあったのは、関係者ボブ・バーンズの協力で書かれた、AIP低予算映画コラム3連発。貴重な写真やメイキング情報とともに、安く粗っぽいなりにがんばっていたデザイナーの苦労が感じとれた。
初耳な情報が多くて視点も興味深かったのは、山崎圭司によるイタリア怪獣映画小史。不定形怪獣「カルティキ」がなぜ生まれたのか、その前後におけるイタリア映画関係者の動きから解説。
UMAをふくむ怪獣本をあつかったコラムに『ドラえもん 謎の生き物大探検』がとりあげられていて、1993年当時に岸川靖が藤子・F・不二雄インタビューした思い出が語られていたのも面白かった*1。米国で購入したサーベルタイガーの複製頭蓋骨を見せたところ、その場で購入をたのまれたという。先日のNHK番組『プロフェッショナル』*2でも映された濃密な資料群は、そうした好奇心が地層のように積み重なってできたわけだ。


1996年におこなわれたまま秘蔵されていたというレイ・ハリーハウゼンのインタビューも興味深かった。
コマ撮りアニメ特撮で高いクオリティの仕事をつづけた偉大な特撮マンだが、1993年の『ジュラシック・パーク』から完全に主流になったCGI特撮について問われて、「ツールのひとつだと思っています。大事なのは技術ではなく、作品にどれだけ愛をこめることが出来るか? そこが鍵だと思います」と明確に答えていたのが印象に残った。できるかぎり自分ひとりで特撮を手がけたいとインタビューで語っている作風からしても、もしハリーハウゼンが現代に生まれていれば3DCGの道を進んだろうと感じた。
事実、ハリーハウゼンから影響を受けてコマ撮り特撮の道をすすんでいたフィル・ティペットは、特撮のメインを担当する予定だった『ジュラシック・パーク』で3DCGのモーション作成に回って以降、3DCG特撮へと仕事の軸足を移している。


主人公の着ている服装や、戦う少女物であること、そして実際の発音が「ナイオカ」ということから、『ニョーカの危機』が『風の谷のナウシカ』のモデルのひとつと中野貴雄が主張したコラムの視点も興味深かった*3ギリシャ神話から名前をとったとマンガ版の自作解説にあるが、男性主人公が旅する途中で補佐した現地の姫「ナウーシカ」より、たしかに印象として似ている。いかにも宮崎駿監督のやりそうなことでもある。とはいえ、あくまで一説の段階といったところか。


あと、ミリセント・パトリックがディズニー初の女性アニメーターかどうか、裏づけが取れていないという情報は困った。以前に別のムックで読んだこともあり、てっきり確定情報かと思っていたのだが*4

*1:165頁。こういう余談をはさむところが、良くも悪くもアマチュアっぽさを生んでいる。

*2:感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20131022/1382454319

*3:193頁。インターネット検索してみると、コラムを書いている中野貴雄は2008年以前からブログでとなえていた。http://blog.livedoor.jp/n_tko/archives/51000180.html

*4:かなり昔に2ちゃんねるアニメトリビアスレッドに、その情報を書き込んだ記憶もある。http://www.geocities.jp/trivia_in_anime/kako/1084320423.htmの747番だが、今になって見返すと誤解を生みかねない表現になっている。しかも、当時に情報源としたムックが手元にないので確認しようがない。