法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『つみきのいえ』

温暖化で徐々に水位があがりつづける水没世界。部屋が沈むたびに上へ上へ家を建て増していく孤独な老人。
ある日、老人はたいせつなパイプを水中へ落としてしまう。それを追って老人は下へ下へ潜っていき、記憶の階層を回想していく。


加藤久仁生監督による2008年公開の掌編アニメ。主にVFX制作で知られ、アニメ会社としては『もやしもん』等で知られる白組が制作した。アカデミー賞の短編アニメ部門を受賞。
パステル調の背景美術にのせて、いかにもアートアニメーションらしいデザインの人物が作画枚数を使って滑らかに動く。主観視点の背景動画や、部屋が水浸しになる場面などで、芝居以外の作画も楽しめる。原画には白組スタッフにくわえてオープロダクションがクレジット。
舞台設定と物語が密接で、かつ過不足なくまとまっている。まったく台詞や字幕がなくても、描写だけで作品内容を追っていける。しかし逆にいうと、事前情報から予想できた以上の驚きはなかった。
全体として、普遍的な物語を商業アニメ作家がアートアニメ風味にまとめた、といった印象だ。『マインドゲーム』や『FLAG』や『惡の華』のような、色々やらかした感じの商業アニメ作品に比べれば、広く一般受けしやすそう。仮にスタジオ4℃あたりのオムニバス映画に収録されていたら、娯楽に徹した一編と評されたかもしれない。


なお、映像ソフトには、長澤まさみナレーション版も収録されていた。先にBGMオンリー版を観たこともあってか、ナレーション版は状況がわかりやすい以上の価値を感じなかった。
おそらく客観的には悪いナレーションではないのだが、せっかくはぐくめた想像を奪われていく感覚をおぼえた。