法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『10人の泥棒たち』

仲間が館長の気をひきながら進入ルートをさぐり、その隙をぬってワイヤーで吊られて建物外から進入。そうして4人組は美術館から骨董品を首尾よく盗みだした。次にアジトで待っていた仲間の2人と合流し、香港の巨大カジノからダイヤモンドを盗む計画をたてる。
過去にトラブルで決裂した元仲間1人と再会し、香港現地の悪党3人も仲間にむかえて、総勢10人で巨大カジノへいどもうとするが……


韓国で観客動員数記録をぬりかえたという2012年の韓国映画。日本では今年6月に劇場公開され、9月に映像ソフト発売予定。8月から独占レンタルしているTSUTAYAが、面白くなければ全額ポイントバックするというキャンペーンを展開している。
「10人の泥棒たち」特集 - TSUTAYA online
タイトルの通り、悪党が協力して目標を達成しようとするジャンル作品。協力をつづける『オーシャンと十一人の仲間』よりも、仲間内で騙しあいが始まる『黄金の七人*1に近い。
このジャンルは脚本に多少の矛盾があっても、演出でよほどの失敗をしなければ、一定の娯楽性をたもてるもの。この作品も、冒頭の計画からして『ルパン三世』のような荒っぽさで、細かな失敗を小技できりぬける描写の連続だけでサスペンスを持続させていた。
巨大カジノからダイヤモンドを盗む準備段階でも、お約束どおりに意地をはりあいながら仲間意識を育てていき、あちこちでラブロマンスが展開される。そして巨大カジノ潜入では冒頭の美術館潜入をスケールアップした描写で楽しませてくれる。
しかし物語は中盤からコメディからシリアスへ雰囲気を変え、かかえていた火種以上の混戦にもつれこんでいく。ダイヤモンドも盗難対象から争奪対象へとうつりかわりながら、全く別の目的の踏み台へと立場を変えていく。そうしてジャンル映画として突き進んだ延長線上に、作品の独自性が生まれていった。


象徴的なキャラクターが、中年女性ガムだ。美術館潜入では母親役を演じ、巨大カジノでは大阪から来た日本人夫婦を演じる。
その準備段階で、夫役の中年男性チェンから本気の告白をされ、勢いでディープキスまでしてしまう。先に複数のラブシーンが描かれていたからこそ、「おまえらまでラブロマンスかよ!」とたまげてしまった。
仲間の女性イェニコールに3年以上は男と寝ていないでしょと揶揄されていたガムだが、チェンに対して10年は男と関係していないのよとカミングアウト。「そのオトメデータは誰が得するんだよ!!」。おまけに計画実行の直前にイェニコールが呼び出しに来た時、2人は脱いだ服を着ている最中だった。「ただひとつのベッドシーンが中年の事後かよ!!!」
しかし献身的なチェンの行動に、ガムだけでなく見ている側もほだされていく。対するガムも可愛らしく見えてくる。はげしいアクションの果てに待っていた展開は、2人の年齢どおりのアナクロニズムと思いつつも感動してしまった。
しかし長々と説明した2人のドラマは、せいぜい作品の半分にすぎない。群像劇に移行した後半では、類型的なキャラクターの意外な一面や隠れていた真意が次々あらわになり、一個の人格が立ちあがっていく。その思惑の衝突で事件が転がっていき、さらに娯楽としてももりあがった。


ワイヤー吊りを主な進入方法にすることで、ウィンチを担当する仲間との関係性と、アクションの段階的なスケールアップを視覚的に表現したことも素晴らしかった。
冒頭の美術館での進入と脱出なら、女優が体をはっている*2とはいえ、まだ邦画でも可能だろう。しかし巨大カジノでのワイヤー吊りを空撮から1カットでクローズアップするVFXシーンは、かなりの大作映画でないと困難だ。
そしてクライマックスの香港映画とパルクールを足したようなアクションは、そのシーン目当てでも満足できるだろう質と量があった。アクションゲームのような快楽と、それを生身で演じる迫真性。