法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも怪奇な物語』

エドガー=アラン=ポーの3作品をオムニバスで映像化した、1967年のフランス映画。GYAO!で8月28日まで無料配信中。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00569/v08384/
男同士の関係で描いていた原作を男女関係に組みかえて、幻想怪奇作品と呼びたくなる雰囲気にしあげている。古めかしいカラー映画ならではの雰囲気が好みなら、見て損はないだろう。


「黒馬の哭く館」は、『バーバレラ』のロジェ=ヴァディム監督が担当した。城で酒池肉林を楽しむ女主人が、隣の城主に対する愛情と憎悪で狂っていく。
ロケハンした古城や廃墟にはムードがあり、エロティックなシーンを演じる女優は美しく、女主人が馬に乗って駆けぬけていく結末は印象的だ。しかし女主人の服装がレオタードだったりショートパンツだったり、時代設定を無視したコスプレ状態なのはいかがなものか。このせいで手間を無駄にかけただけのB級ポルノ映画に見えてしまう。
ちなみに原作となったポーのデビュー作『メッツェンガーシュタイン』は、『まんが世界昔ばなし』において「炎のうま」というタイトルで出崎統監督がアニメ化しており、少年王が狂気に殉じる姿を描ききったことで、今も高く評価されている。作画を手がけた川尻善昭監督による耽美なキャラクターも素晴らしかった。
「影を殺した男」は『ウィリアム・ウィルソン』をルイ=マル監督が映像化し、アラン=ドロンが主演した。塔から落下する男と、街路をひた走る主観視点をカットバックし、教会で必死に懺悔する主人公の口から何があったのか語られていく。
はっきりいって怖くないが、オチ以外に超常現象を排して、舞台をリアルに構築しているから、古びることなく現代の鑑賞にたえる。前話と同じくエロティックな場面がつけくわえられているが、それを実行する主人公は感情を表に出さず、雰囲気は乾いている。おかげで女性を解剖しようとする場面や女性と賭博する場面が、ちゃんとサスペンスらしい緊張感をたもっていた。
「悪魔の首飾り」は『悪魔に首を賭けるな』をフェデリコ=フェリーニ監督が映像化したもの。退廃した映像業界と少女の幻影に狂わされた男が、暴走のはてに世界から飛び出していく。
前話から一転して、現代を舞台にしたり悪魔と賭けたりしないという大幅な翻案がおこなわれ、人工的な映像世界におけるキッチュな恐怖が描かれた。はずむボールとともに現れる白い少女は、現代ホラーに慣れた目で見ても新鮮。素顔をかすかに覗かせるにとどまる、その恐怖。