法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『鴛鴦歌合戦』

GYAO!の日活映画100周年特集*1で配信されていた、マキノ雅弘監督による1939年の時代劇映画。
約70分の尺を使って、若い浪人者をとりあう少女たちの恋愛模様と、老いた内職浪人と殿様の蒐集狂戦を、オペレッタ調で描いていく。


どうやら近年にデジタルリマスターした版を配信したらしく、画面はなかなか綺麗だった。
映画そのものも、レイアウトからカメラワークまで、戦前の邦画とは思えないほど完成度が高い。オープンセットをねりあるきながら歌う冒頭や、内職で貼った傘を一面にならべて干している場面など、現代の感覚でも充分な見せ場になっている。さすがに終盤のチャンバラは動きが遅いものの、もともと緊迫した状況ではないので、この作品においては問題にならない。
あとで調べてみて、主演の急病により即席で企画されて早撮りされた作品だと知って驚いた。


物語も全体として筋は明快で、おおむね楽しめる内容だった。さまざまな立場の人間がいれかわりたちかわり登場しながら、皮肉な状況に直面していく。欠点は、群像劇ということを考慮しても序盤の話運びがわかりにくかったため、尺から考えて少女たちの数を減らしてもいいかと思ったくらい。
それと個人的に、蒐集狂の気持ちがわかる人間として、内職浪人の娘が最後にとった行動は少し嫌だった。蒐集物より人間が大事という道徳観もわかるが、そのことは後半から内職浪人も理解して行動していたのだし、蒐集狂としての喜びを少し味あわせた状態で終わらせてほしかったよ。客観的に見れば、その場面まで内職浪人の蒐集熱のせいで娘が苦労していたのではあるが。