法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『惡の華』ロトスコープの感想

話題をさらったロトスコープ手法は、実写のようなリアリティある風景に演技を追いつかせる意味あいが強かったように思う。
最初から実写にすれば良かったかというと、そう単純でもない。『中学生日記』のように実際に中学生が演技すると、それはそれで不自然に感じられるものだ。それに第十一回の終盤で幻想の街を彷徨する場面などはアニメでないと映像がなじませにくいだろうし、最終回でフラッシュバックが延々と続くような場面も凡庸な演出に感じかねない*1
もちろんリアリティある情景であればクオリティが高いというわけではないのだが、この作品では意味があったと思う。仮に、いかにもアニメらしいデフォルメされたキャラクターデザインだったなら、教室に「華」を咲かせた次の日の緊張感は生まれなかっただろう。過去にアニメが描いてきた問題に比べてささいな行動だからこそ、取り返しがつかないことだと示すためには強いリアリティが必要だった。
さらにリアリティを付与しただけにとどまらず、要点ではロトスコープだからこそ成り立ったような派手な表現も多かった。特に、教室で「華」を咲かせた第七回*2、世界の外へ行こうとした第十回の狂騒、作文をわたそうとして追いかけっこした第十二回などが、それぞれ印象に残っている。


また、アニメーターの表現力を広げる経験として高い価値があったろうことも、作品へ言及しているアニメーターの発言からうかがえる。連続TVアニメとして多くのアニメーターが長期間にわたって参加したからこそ、日本アニメの発展に寄与するだろうと予想するし、そうなるよう希望する。

*1:ただ、いささか凡庸な演出が、原作の未映像化部分を予感させる手段として使われたことは、けっこう構成としても珍しく、個人的には面白かった。

*2:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20130601/1370099257