法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

大半が心因性と判断できる病気に対し、どの局面でそう説明するべきか

関連する私個人の汚い感想は最後の段落で書く。
NATROM氏の主張『化学物質過敏症は臨床環境医によってつくられた「医原病」だと思う』への批判 - Togetter
NATROM氏は「ホメオパシー」の夢をみるか? - Togetter
このエントリで書くのは、前者のまとめから派生した後者の論争について。
最初に全体の感想を書くと、私の解釈した争点が正しかったとして、むしろ現場の臨床医一個人という立場でこそ答えにくいことも多いのではないか、とも想像する。
はてなブックマークでも指摘があるが*1、前者のまとめが臨床医と患者の論争と考えると、断言できることを言外ににおわしたり、微妙なところを断言せざるをえない背景もあったのでは、とも想像できる。


ただ、おそらく両方のTogetterをまとめている[twitter:@momomo_ensemble]氏は、[twitter:@yunishio]氏が化学物質過敏症の原因そのものにはほとんど興味を持っておらず、あくまで化学物質過敏症をうったえる患者に対する対応を論じていることに気づいていない。たぶん当初は[twitter:@NATROM]氏も気づいていなかったから、論争が長引いてしまったのではないかと思う。
yunishio氏の言葉から言外の主張をくみとろうとすると、何を論点にしているか見失うことが多い。争点を言葉通りに細かくしぼっていることが多く、関連する別の争点へ移ることを避ける論者なので、逐語的に解釈しないと蒟蒻問答のようになってしまう。


逆にyunishio氏に対しては、逐語的でない意見に対して厳しく切り捨てすぎていると第三者として感じた。

たとえば「ヤリ捨てた年上女が寝床に現れて困る。この頭痛はその生霊のせいだ」という患者があらわれたという比喩ならどうだろう。
アニメ「源氏物語千年紀 Genji」公式サイト
この場合であっても、おそらくyunishio氏は「トンデモあつかいしたり、診察する前から心因性と判断するべきではない」と主張するのではないだろうか*2
もちろんフィクションの住人ならいざしらず、現実で生霊が原因などということは考えにくい。しかし心因性以外でも、頭痛を起こす他の病気が原因という可能性だって残る。
NATROM氏が「あくまでインターネットごしの判断ですから大半は心因性だろうというしかないだけで、実際に病院へくれば診察しますし、さまざまなアレルギー反応である可能性や他の病気を持っている可能性も考慮しますよ」と明言していればyunishio氏は納得した気がする。
実際にNATROM氏も、似たような症状の訴えに対してさまざまな診断をくだしたことを説明している。

だが、経験談化学物質過敏症と自己判断した患者とは厳密には違っていたため、yunishio氏は混乱したという。

当初に「経験はありませんが、具体的に化学物質過敏症と自己判断された患者でも同じように診察しますよ」といった説明をしていれば、あるいはyunishio氏は納得できたかもしれない。


ここがyunishio氏の意図した争点であるという説明は、[twitter:@Ntokunaki]氏とのやりとりでも語られている。その意図が伝わらなかった責任が誰にあるかはさておき、むしろ冒頭のTogetterよりも争点のありかがわかりやすかった。

そこに争点があるというyunishio氏の説明は、とりあえず冒頭まとめ当初のツイートと読み比べても矛盾はない。

ここまでくれば、「大半は心因性だ」という知見を表明することが患者の萎縮につながるのかとか*3、逆に「大半は心因性だ」と表明することで症状がおさえられる場合もあるのではとか*4、そもそもあらゆる患者をうけいれるべきという原則について負担する現場の立場をはなれて答えられるのかとか、そういう争点であって化学物質過敏症そのものとは関係ないことが明らかになる。

正直にいえば、たとえ争点をたがいに共有しながら論争しても、ツイッターで答えを出すことは極めて困難な話題だと思う。
それから、ツイッターでやりとりして第三者がまとめるよりも、やはり論争がはじまりそうならブログを書いて通知するべきだったんじゃないかと思った。


他に、yunishio氏側の問題として、当初のツイートで「検査」と表現したのも良くなかったと思える。

しっかりした情報源が見つからない*5ので記憶にたよるが、医療の現場では「検査」や「診断」や「診察」はニュアンスが違っていたはず。
この観点にあたると思われる説明がNATROM氏からもあった。

もし、症状をおさえることが目的の「診察」ではなく、病因を特定することを目的とした「検査」が求められていると解釈した時、それは現場の医師として確約できなくてもしかたないのではないか。もともとが原因が何かという争点だったのだから、その延長で考えていれば、yunishio氏も病因の特定を求めているという解釈になりやすいだろう。


最後に、「検査」と「診察」の違いについて、たまたま最近に患者の立場で知ったことの感想を書いておく。日記で書いたことだが、少し前にウイルス性腸炎にかかった。
ウイルス性腸炎にかかったらしい - 法華狼の日記
近所の診療所へ行ったのだが、触診や聴診といった簡単な診断で終わり、整腸剤だけを処方されて「これで充分なのか?」と少し疑問に思っていた。しかし、いくつかの病院サイトのページでくわしい説明を見つけて、納得することができた。ノロウイルス等の名称までくわしく伝える報道をよく見るが、それはむしろ例外的なあつかいらしい。
http://homepage3.nifty.com/yasumura-iin/uirusu.html

 便、吐物からウイルスの検出が可能です。しかし、保険が適応でなく自費検査となるため高価です。検査結果が戻るの2〜5日を要します。また、あきらかにウイルス性の胃腸炎なら、一般には重篤化せず、検査結果が出てくるころにはほぼ回復しているので検査することにあまり有用性がありません。また、ウイルスが異なっても治療法は同じでありウイルスを同定することに実地臨床的な意義は少ないのです。(ただし、集団感染などの場合は別で、ウイルスの同定が必要です。)

「検査」をすることで病原体を特定する方法はあるが、どのウイルスであっても特効薬は今のところ存在しないし、検査結果が出るまでには完治していることが多い。患者の病気を癒すことが優先すべき目的と考えるならば、高価で時間もかかる検査を省略することは自然だろう。
つまり、わりと身近に聞く病気であり、化学物質過敏症と違って病原体が存在すると医学的にはっきりしていても、医療の現場の常識として検査を省く場合があるようだ。
ただ同時に、患者の側からすれば、治療そのものには寄与しなくても、病因をくわしく知るための検査を望む人もいるだろうと想像できた。患者本人は知識を持っていなくても、医師から病名をはっきりいわれることで安心する場合はある。
これは途中でも言及したが、「大半は心因性だ」と表明することで症状がおさえられる場合もあるのでは、という話などにも繋がってくるだろう。

*1:ひとつひとつは引用しないが、「患者」という言葉にふれた多くのコメントがそう。http://b.hatena.ne.jp/entry/togetter.com/li/519321

*2:「CIAにチップを頭に埋め込まれたので、CTスキャンをしてくれ」という例え話に対して、それらしい回答をしている。https://twitter.com/yunishio/status/346120053038673920

*3:このツイートはその疑いをもっているからだろう。https://twitter.com/yunishio/status/346093552792649730

*4:医療の現場において、診察の結果として断言される病名や病因は、しばしば厳密性が要求されていないと聞く。断言せざるをえない、断言することで効果が生まれる場合もあると聞く。信頼できる情報源を見つけられなかったので、補足や批判がほしい。

*5:検索して見つけたページもあるが、信頼性を担保するような立場が明記されていない。http://medical-checkup.info/article/100086097.html