法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『7 DAYS リベンジ』

愛娘を暴行致死事件で失った父親の、七日間にわたる拉致拷問復讐劇と、それをとりまく周囲の人々を描く。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00603/v12095/
2009年のカナダ映画。DVDスルー直前にGYAO!で無料ネット配信する企画に選ばれた。劇場未公開作品だが、予想外に良い作品だった。


序盤に発見される遺体からして、父親の復讐劇に説得力を与えられるだけの、痛々しい映像になっている。娘をおくりだした直後に父親と母親が愛しあっていた絆が、直後の喪失の痛みと後悔を生むという、脚本の小技もきいている。
その発端から拉致監禁までの話運びもよどみなく、拷問を続けながら悩む父親に尺をたっぷり用意する。そこへ、妻が殺された瞬間のビデオをリピートする刑事や、復讐心を忘れようとする他の被害者遺族の思いが重なっていく。
肉体を損壊する痛々しい拷問を主軸としながら、描写は抑制されている。映画全編にわたってBGMが存在しないほどだ。拷問する父親も、癒されていたり興奮したりする瞬間はごくわずか。顔をしかめながら、医師という職業技術をいかして、淡々と業務のように復讐対象を傷つけていく。かなりリアルな映像が連続し、カット割りで想像させる演出も巧ければ、どのように撮影したか見当つかないカットも多い。
復讐を文芸的に描くとなると、そのリアリティにはVFXや特殊メイクのみならず、もちろん俳優の演技力が大切になる。この作品において、主演はもちろん復讐対象や刑事や娘も文句なし。特に復讐対象の若者は、作中人物をイラつかせる性格でありつつ、拷問される姿を見ても爽快感をおぼえるほどではない、絶妙な愚かさだ。
そうしてこの物語は、復讐の爽快感でも復讐後の虚しさでもなく、復讐心を持続することのつらさと難しさを描いていった。


父親の私刑計画と、それを止めようとする刑事達の追跡も、それ相応の見どころがあった。七日間だけ拷問すれば殺害して自首すると父親が宣言しているから、いささか荒っぽい計画でも現実感を損なわず、タイムリミットサスペンスに繋がる。そのサスペンスを盛り上げる小道具として、鹿の死体が暗喩的に用いられているところがカナダらしく、珍しくて面白い。
激しいカーチェイスや銃撃戦こそないが、画面に登場する警官や警察車輌の数が多く、大自然や郊外を舞台に展開するから、下手な大作映画よりも画面が充実。それらの被写体を切り取るカメラワークも完璧だ。


どれほど陰惨な事件でも全ての被害者遺族が復讐を望むわけではないという現代的な視点が導入され、さらに物語が転調していく。復讐心を持ち続けることが、遺族の苦しみともなるのだ。
そして劇映画でしかありえない演出から、父親へひとつの救いと痛みが与えられ、物語が閉じられる。唐突にすら感じる幕切れの後、無音で流れるエンドロールが余韻を作る。


文芸性と娯楽性が両立している。この作品が邦画であれば『映画秘宝』あたりで絶賛されそうだし、同時に『キネマ旬報』あたりでも高評価されそうだ。韓国映画の暑苦しい復讐劇よりも、個人的には好みなくらいだ。
しかし、復讐や私刑を題材にした映画は名作佳作が数多く、それらと比べて頭一つ抜け出るには一押し足りない。何か一つでもフックとなる要素があればと感じる、惜しい作品でもあった。