法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

福の神

夕食を食べた後、見知らぬ老婆が住居にあがりこんできた。


昔の友人に会いにきたが見つからず、もしここに人が住んでいないなら泊めてほしい、という。住人を目の前にしてである。
話を聞いてみると、歩いて三十分はかかる港に降り、野をこえ山をこえ歩いてきたという。そして古い友人がお好み焼き屋を経営していると話しだした。現在は建物すら存在しないが、かなり昔そのような店がそこにあったことは事実。つまり風景を見て、適当な話をでっちあげていたわけではない。
すでにほとんどの交通機関は止まっていたが、個人が動かしているタクシーなら呼べるかもしれない。そこで降りたという港まで自動車で連れていくと、船員と警官が話しあっていた。どうやら老婆の言動が心配で、さがしていたらしい。
警官と話し、とりあえず派出所に連れて行った。そしてその夜のうちに、老婆の行方を捜していた家族が見つかり、ひきあわせることができたという。


ふと思い返す。自動車に乗せて移動している最中、タクシーに乗る料金を持ち合わせているかと老婆にたずねてみると、紙幣のつまった財布を取り出し、私へ支払おうとした。もちろん断ったが、その行動を見て、まるで昔話に出てくる福の神のようだな、と感じたのだった。