法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『マギ』第14話 アリババの答え

これは納得できる茶番劇。


クーデターに成功した第三王子アリババは、即位の要請を断り、共和制の施行を宣言する。砂漠の旅において共和制を知った経験があると説明されたが、その台詞だけでは納得できなかった。この選択に説得力を与えたいなら、砂漠を旅して共和制の地域へ立ち寄ったという描写が、過去回にほしかった。
しかし次の展開で、共和制へ移行することには、黄帝国への従属要請を先送りにする外交上の意味もあると描かれた。なるほど王のいない国が相手では、姫をとつがせる外交戦術は使えなくなる。
たがいに茶番を前提視して屁理屈と自覚しつつ、今をやりすごしてシンドバッドと関係を結ぶため、議論の落としどころを探っていく流れも良かった。それぞれの勢力内部の温度差もきちんと描けている。
共和制の施行が結論づけられた後も、しょせん民衆は王を求めるという冷や水があびせられる。さらに結末と次回予告で、共和制への移行だけでは王政への怒りが抑えきれないことまで示される。


基本的に王宮内の会話劇で終わったのだが、さまざまな意図を正面衝突させながら決裂をふせがなければならない緊張感があって、見ていて飽きなかった。
シンドバッドに助けられるだけではなく、それを超えた発想をアリババが行えたというカタルシスもあった。廃位された王すら、人々を導く責任の重圧を第二王子へ実感させて、傲慢で愚劣なりに人間であることを示す。
上から民主制が与えられる物語は、現代では安易に肯定できない。無血革命も説得力を生みにくい。その概念が広まっていない世界で概念の正しさを民衆が前提視した描写も、違和感を生みやすい。この作品では、いったん別の争点に移して、共和制を選択する実利を描いた上に、作中の民衆に届く言葉*1で民主主義を説明して見せた。

*1:これができたからこそ、「人権」という表現は台詞で使わないよう避けてほしかったとあらためて思う。