法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』パパとのび太と酒の泳ぐ川/しかえしミサイルが飛んできた

今回は前後半ともにテーマ性の強い原作をアニメ化。正面から力をこめてアニメ化することで、説教臭さより力強さを感じさせた。
コンテ演出は八鍬新之介で、後半のコンテのみ大宅光子。Aパートで川を俯瞰で見せたカットや、Cパートで野球のボールが空中にのぼったカットなど、かなり風景の精度が高かった。ひょっとしてgoogleマップなどを活用したのかもしれない。


Aパートは、川をきれいにして魚を戻そうとする自然保護活動を、鮭のかわりに酒でなぞらえて描く。リニューアル前にアニメ化した時も傑作で、印象に残っている。
稚魚の動きや酒瓶の質感など、全体の作画がいい。酒瓶が魚のように泳ぐバカバカしい情景も、リアルな背景美術によって、幻想的に演出されていた。
いかにも水野宗徳脚本らしく、家族の人情味も増していた。パパの日常を原作よりふくらませて点描し、酒くらいしか楽しみのない、しかし不幸でもない男として映し出す。そういえば、放映日は勤労感謝の日か。


Bパートは、たがいに威嚇しあう姿をとおして、冷戦時の相互確証破壊を風刺する。原作者生前は単行本未収録の短編。
のび太は、横暴なジャイアンたちをミサイルで一方的に攻撃するが、すぐにミサイルがスネ夫に盗まれて反撃にあう。そこで攻撃を察知して自動で反撃する機能をとりつけ、それをジャイアンたちへ通告し、攻撃を封じようとする……
ここまでは映画『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』でもあつかったテーマだが、この短編では威嚇しあった結末に、和解をみる。そして仲良く野球をはじめるわけだが、高く打ち上げられたボールにミサイルが反応。気づかず野球を続ける四人のところへ、無数のミサイルが飛翔していく……


威嚇しあう場面で長い尺をとって、緊張感の高まりを演出。それが野球風景でいったんゆるむ。
しかしボールが打ち上げられた一瞬、風景がモノクロとなる。

そして笑いあう四人と降下するミサイルを映しながら、画面がホワイトアウト

そのまま断ち切られるように物語が終わった。
ほとんど大人向けSF短編レベルにブラックな原作を、さらに強調したアニメ演出が素晴らしかった。