法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ONE PIECE エピソード オブ ナミ 航海士の涙と仲間の絆』

土曜プレミアム枠で放映された2時間アニメSP。航海士ナミの「裏切り」を発端として、故郷での魚人族との因縁が展開されるエピソードをリメイクした。
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2時間SPとしては少し内容を詰め込みすぎていて、もっと整理して良かったかもしれない。たとえばナミが仲間に加わる冒頭部分は省略し、裏切ったナミをウソップ達が探す場面から導入して、仲間の言葉でナミというキャラクターを説明していくとか。
視聴者にチャンネルを変えられることを防ぐためか、見せ場ばかりを繋いで興味を引かせ続けた結果、一本の長編作品として散漫な感もあった。


また、個人的な好みとして、この作品は原作からして負傷の戯画化が強く、敵味方が肉体を安易に損傷させる演出は苦手だ。今回のような初期エピソードは主人公ルフィの行動動機に「仲間」という概念しかなく、言動に説得力を感じにくいという問題もある。
しかし、群像劇のようにキャラクターが舞台にいれかわりたちかわり、社会階級や民族差別の重層性や多様性を入念に描いているところは、最近の少年漫画に珍しい特色だとも思っている。特に今回のエピソードは、「裏切り」を命令ではなく状況によって強いられるキャラクターを主軸にすることで、特色が際立ちつつ、主人公の行動に違和感が少ない。
「直接的な暴力で要求することだけが悪い」
「金銭の負担をかけて拘束することは普通」
「命じてないのに身代わりに名乗り出たから自由意志」
「官憲が合法的に被害者から奪うことは正当」
「悪人と利用しあっている証拠がないので官憲は無罪」
「甘い約束を信じて騙される者が馬鹿」
「閉じこめていても食料や物品を豊富に与えれば幸福」
こうした論理が正論として対外的に公言される、そんな現実を最近に何度も見た。それだけに、身体的な暴力にとどまらない様々な抑圧にあらがう物語が、いっそう力強く感じられた。


ちなみに1時間前の情報バラエティ番組『潜入!リアルスコープZ』では、今回SPと映画次回作の制作現場が特集された。東映アニメーション本社にいったので、本社内で開放しているミュージアムの紹介も少し。東映アニメーションの水曜日はノー残業デーという張り紙があったりも。
所勝実監督は43歳、半年をかけて全ての絵コンテを切ったという。単に作画で動かしているだけでなく、キャラクターごとに殺陣や寄り引きを変えていたのは良いが、止めた絵で情感を盛り上げる演出が少なく、ややメリハリ不足という印象があった。
キャラクターデザインと作画監督をつとめた中谷友紀子は25歳。とにかく若さがまぶしかった。タレントをゲスト出演させるため、目の前の本人を参考にして作画する場面も興味深かった。
番組解説によると作画枚数は約4万枚とのことで、東映アニメーション作品としては破格の作画リソースがつぎこまれている。実際、日常場面の背景モブもしっかり動いている。アクションも良く、平均的に作画が良いとはいえない劇場版と比べて、遜色ないと感じたくらいだ。
アバンタイトルを初めとした水飛沫や波の作画、格闘ゲームを思わせるサンジの殺陣、ナミが監禁されていた部屋を打ち砕くクライマックスが、特に印象的。黒柳賢治や島袋智和らが原画に参加していたが、作品全体がカットごとに個性を出しつつ動きのメリハリもあり、他にも良い原画マンが多く参加していそう。