法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『耳刈ネルリと十一人の一年十一組』石川博品著

『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』石川博品著 - 法華狼の日記
『耳刈ネルリと奪われた七人の花婿』石川博品著 - 法華狼の日記
これにて三部作が完結。デビュー作品をシリーズ化して、こんなにまとまりある作品にできるとは。


一種の予言書を軸にして物語がつむがれていくわけだが、はっきりと予言が外れる描写はないまま、踊らされたり反発したりする人々を時にコミカルに、時にサスペンスフルに描く。そうして予言を足がかりにして未来が作中世界に確かにあるのだと感じさせ、主人公達の将来へも自然と興味がいくよう読者を導いていく。
学園物において、卒業して数年後の後日談や、子供達の未来図が描かれる作品は、まれにある。だが、別離と成長の痛みを感じさせながら、将来の可能性を開いたままにしていると感じさせて終わった作品は、滅多に見ない。


やや展開が単調だった第一作とは異なり、伏線的な描写が機能していて物語にうねりがあって、独立した物語として読んでも完成度が高い。
特徴的だった夢想的一人称は抑制され、特に主人公がネルリと一線をこえた後はほとんど消え去るが、その代わりの感傷的な文章が良く、作者の地力の高さをうかがわせる。特に、自己陶酔していると感じさせない一線のひきかたが巧みだ。陶酔的な文章が必ずしも悪いとはいわないが、ふざけた一人称が意図的に陶酔的であるため、ふざけることをやめた後は陶酔的であってはならない。