法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ダークナイト』

三部作映画は第二部の完成度が最も高いというジンクス通り、本当によくできた娯楽映画。
この種の評価された映画としては、あまり監督の美意識や個性が前面に出ていると感じられないところが、逆に珍しい。むしろ、過去から『バットマン』シリーズで何度も取り上げられた独善的な正義というモチーフを中核にすえつつ、手堅く各要素をまとめていった様子。
キャラクターの行動動機はシンプルで、回想で長々と語ったりはしない*1。わかりやすく類型化されているから説明が少なくても話を追いやすい。シンプルだからこそキャラクターが力強く、他人と衝突することで折れたり曲がったり貫いていく様が、ドラマになる*2


特に良かったのが、混沌を求めて行き当たりばったりな行動をとるだけに見えたジョーカーが、実はバットマンを標的にしていたわけではないところ。
最後まで見れば、多くの策略が「光の騎士」を打ち砕くための行動とわかる。「闇の騎士」という存在が立ち上がったのは、あくまで「光の騎士」が退場した後のこと。むしろ今回のバットマンは当て馬や観客にすぎないようにすら見える。
だから主人公が社会からヒーローとして受けいられつつ、本人はまだ成長途上な、第二部のバットマンでこそ描かれた意味がある。ともすれば悪の免罪に繋がりかねなり正義の多様性ではなく、正義の困難性を描き、成功していた。


他には、登場する様々な「悪」の誰もが、他者へ選択を強要するという行動をとるところが興味深かった。
いわゆる「トロッコ問題」への批判を読み込むことも可能だろう。簡易な「デスゲーム」物としてサスペンス性を高める手法と見れば、やや安易に感じないでもなかったが。

*1:ジョーカーの過去告白で、意図的に茶化されてすらいる。

*2:日本のアニメでいうとマッドハウス作品、特に川尻善昭監督作品に近いだろうか。