法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

嘘と知っていると見る気になれない嘘と、嘘と知りつつ見てみたい嘘と

偽ニュースを流している「虚構新聞」について、いくつかの批判と擁護があったので、簡単に私見でまとめておく。


まず、エイプリルフールに発信された明らかな嘘が、文脈を離れて誤情報として生き続けた複数の例が、最近も話題になった
長らく発端不明のオカルト情報として生き続けたり。
http://nsmysteryconnection.com/blog/2012/04/post-146.html

 超有名でマスメディアにもっとも人気があり、使用頻度が高い「小人宇宙人の捕獲写真」のネタ元がついに特定された。
 これまで、1950年代に、西ドイツのケルンの新聞に写真が掲載されたと、まことしやかに伝えられていた。いわく、メキシコに不時着した円盤の乗組員だとされ、宇宙人を連行しているのは、アメリカのFBIかCIA、あるいは旧ソ連KGBのエージェントだと思われてきた。同時に、「サルの毛を剃ったもの」ともいわれ、フェイクではないかとの疑惑もまた執拗に流れていたが、決定的ではなかった。

政治家まで動かす大きなデマに発展したり。
「韓国が青森ねぶた祭りの起源を主張」はエイプリルフールネタ - NAVER まとめ

パッと見、燃灯祝祭の公式サイトに、「写真=日本のねぷた祭に多大な影響を与えた燃灯祝祭」「燃灯祝祭は日本のねぷた祭に多大な影響を与えたことでよく知られています」と書いてあるように見える。

文章のおかしなところは、一般に広まる「ねぶた」ではなく、「ねぷた」と表記されているところだ。「ねぷた」じゃ弘前のお祭りだ。

後者のエイプリルフールには、私も言及していたので、結論部分を再掲しておく。
青森ねぶた祭りを韓国が真似したというウソは、プリキュアにしかられるべき - 法華狼の日記

「せっかくだから、たのしいウソをついちゃおっと!」という思いつきの嘘ですら、きちんと訂正して謝らなければ大問題になるわけだ。


次に、いくつかの具体的な「虚構新聞」への批判について。
虚構新聞だからデマでも許されますって思ってる奴今すぐ死ね - 今日も得る物なしZ

このネタだってやるなら「大坂市長の橋本氏」でいいじゃねえか。

誰が読んだってジョークってわかるしそれでいて内容も理解できる。

名前が実名じゃないことでネタのレベルが落ちることもない。

今回は名前が実名、顔写真を使用、記事タイトルしかツイートされない等々勘違いするほうが悪いなんてレベルの話じゃなくなってる。

私個人は、虚構とは明記しており、矛先が政治家のような公人に向けられている限り、現状でも許容されるべきだと思う。実名や顔写真を用いるとなると、議論がわかれるだろうとは思うし、より題材の慎重なあつかいが求められるとは思うが。
そして同時に、よくできた風刺や、似顔絵を使った政治漫画でも批判されることを思えば、現状で批判が出ないわけがないとも思う。表現の自由は、全ての批判をかわせるような魔法の言葉ではない。
なお、上記で批判しているkyoumoe氏は以前から実名を流布され個人情報を罵倒に用いられ、生活に実害が出ていることも、一つの情報として注意しておく。
しかしkyoumoe氏の批判に対する虚構新聞擁護の少なくない数が、騙されたことの反発で批判していると解釈している。
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id:utd_sn3781 バカ, 顔真っ赤, 釣り, 釣られておく
この人騙された人?こいつの言ってることこそただの俺ルールだよね。それを持つこと自体否定はしないが。 2012/05/15

このこと自体、結果的に現状の『虚構新聞』が風刺よりも騙された人を笑うために用いられていることを表しているだろう。
kyoumoe氏の口調の厳しさが無用な反発を生んでいるかというと、ずっと穏やかに指摘しているid:n-styles氏の批判に対しても、同様のコメントが複数ついている。
いい加減、虚構新聞はタイトルに虚構新聞だと明記しろ | N-Styles

「閲覧者を騙して喜ぶ、世間を騒がせるというような悪意も持っておりません」と案内ページに記載していて、今もその気持ちが変わっていないのであれば、タイトルにサイト名を載せるぐらい簡単にできるだろう。

はてなブックマーク - いい加減、虚構新聞はタイトルに虚構新聞だと明記しろ | N-Styles

id:paradisecircus69
この人釣られたんだろうな_φ(・_・ 2012/05/15


はたして偽ニュースは騙すことだけに価値があるのだろうか。
ここで、同じように偽ニュースを流している「ボーガスニュース」と比較してみたい。「ボーガスニュース」も、タイトルだけで嘘と明らかな記事と、そういいきれない記事が混ざっているが、書かれている虚構の方向性が異なる。
たとえば、嘘と認識していたとしても、誰もが楽しめそうな記事がある。マイナスイオン効果という虚構を視覚化したものだ。
http://bogusne.ws/article/55184513.html

そこで私は今回、「blogに設置することで大量のマイナスイオンを発生させる」という

「blogマイナスイオン発生器」

を開発いたしました。

個人的には、基本的な情報では全く虚偽を書かず、文脈を読んではじめて嘘が読み取れる下記の記事を理想としたい。
http://bogusne.ws/article/113467156.html

そのチョコの裏で幼い子どもたちが苦しんでいたり、地球が悲鳴を上げているのをご存知だろうか。それを知らずのんきにチョコを贈る行為は、愛しい彼に軽蔑されたり評価を下げられることにつながりかねない。

政治にかかわる風刺でも、タイトルからして明らかに事実を書いた記事ではないが、フィクションゆえに真実をとらえていると感じる記事もある。
http://bogusne.ws/article/104799484.html

第二次世界大戦で亡くなった英霊を対象に弊紙がおこなったアンケートで、終戦の日靖国神社ではなく

「実家で過ごす」

とする回答が90パーセントを占める結果が出た。

むろん、政治にかかわる風刺は、対立する政治的立ち位置の者には不快だろうし、異論もあるだろう。上記の記事末尾では政治家の実名も用いられている。
しかし、嘘と明記していないという批判が上記記事に対して出るとは思いにくいし、逆に騙されているから反発しているのだという擁護が出るとも考えにくい。むしろ偽ニュースを風刺として成立させるための背景認識の事実性で、批判と擁護の論争がおこなわれうるのではないかと思う。


そもそもメディアリテラシーとは、書かれていることが事実か虚偽かということだけを判別するだけの技術ではない。
総務省|放送分野におけるメディアリテラシー

メディアを主体的に読み解く能力。
メディアにアクセスし、活用する能力。
メディアを通じコミュニケーションする能力。特に、情報の読み手との相互作用的(インタラクティブ) コミュニケーション能力。

たしかに、リンク先に飛んで情報元を確認することもメディアリテラシーの一つだ。だが、情報元が偽ニュースサイトであると知っているか否かだけを判断基準とする態度は、メディアリテラシーからほど遠い。変化のない「釣り」をくり返すだけならば、一度で充分だろう。
情報が事実なら、どのような意図をもって伝えられたか、どう解釈するかが受け手に問われる。情報が虚構であっても、作者の意図や、虚構によって表現されていることを読み取ることが重要だ。
「風刺」というならば、「虚構新聞」が現実の何をどのように誇張したり逆転して風刺しているのか、それを考えることが擁護者に求められている。
もちろん、擁護や解説そのものが野暮になりかねないこともわかる。しかし、冗談が受けなかったことを読者の問題に還元するよりは、ずっと誠実だろうし、うまい批評ならば「虚構新聞」をより深く楽しむこともできるはずだ。