法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒-劇場版II-警視庁占拠!特命係の一番長い夜』

TVで視聴。長期シリーズで重要なサブレギュラーをつとめたキャラクターが映画だけで退場するとは知っていたが*1、なかなか地上波放映しないなと思っていたら、その間に相棒まで交代すると決定したという。せめて季節くらいは作中に合わせて放映しても良かったのでは。


さて、映画自体は良かった。
一作目は、サービスのカメオ出演や撮影の規模をスケールアップさせ、あくまでドラマの映画化というイベントをこなしただけと感じた。社会派なテーマも入ってはいるが、あくまで派手な事件を支える動機として採用されたというくらい。
二作目は逆に、規模そのものは時間拡大したドラマスペシャルでも可能だろう。豪華な出演陣で観客を呼ぼうとしているわけでもなく、過去にドラマで登場した役者が一堂に会するだけ。数少ない派手な爆発シーンも、何度も使いまわすことで逆に低予算な印象を持たせる。
しかし、その代わりに二作目の絵作りこそ、充分に映画と呼べるものになっていたと思う。特に奇をてらった構図や、派手な演出はないが、落ち着いた無駄のない絵を積み重ね、ちゃんとした映像作品と感じさせる。
登場人物も、最近のTVドラマ劇場版とは思えないほど、歳を重ねた男達ばかり。どのカットにも皺が刻まれた高年か、脂ぎった中年か、青さを残した壮年かが登場する。むしろ『相棒』というブランドがあったからこそ、このように渋い映画が商業大作映画として制作可能だったのだろう。どの役者の演技も基本的に安心して見ていられた。


警視庁占拠事件とその解放は、あくまで序章。その占拠事件の動機探しと、それがどのように冒頭のテロ事件と繋がるかという謎解きが主軸となる。
実のところ、冒頭のテロ事件は警察の動きが雑。神戸警部補の人質救出はスローモーションで誤魔化しているものの無理がある。占拠事件における人物の動きもおおざっぱ。しかし、そうした突っ込みどころは、展開が進むにつれて伏線として回収されていく。
爆発のVFXは自然で、フィリピンロケによる外観と国内撮影の内観も自然に繋がっている。中華街を聞き込みする相棒の姿は絵になり、廃棄された染物工場に潜入する場面は先の見えない不安感がある。
その染物工場に隠されていた存在には驚かされたし、その正体をめぐって事件と人々の構図がひっくりかえるところも良かった。そこから立ち現れるのは、中盤まで怪しまれていた中国系テロ組織の脅威などではなく、むしろそうしたテロを恐怖して過剰防衛に走る社会の問題。警察という治安機構が組織維持を自己目的化し、正義が自家中毒していく様子。
その自家中毒は、それを問題視して治安組織の改革を行おうとした官房長官や、全てを機械的なまでに犯罪として暴いていった杉下警部にまで、重なって映る。
官房長官が組織改革に挫折したのは、現実と乖離しないためだけではないだろう。杉下警部の写し身として、暴力的な正義が迎える結末の一つを、身をもって示したのだ。


軽妙さを楽しめる場面はほとんどないし、物語も伏線がていねいに引いているからこそ予想の範囲内に落ちるが、一本の物語として楽しめる厚みはあった。
社会派ドラマとしても、さすがに外国人への恐怖を素材のまま物語化するような愚を犯さず、一安心。体感不安という今日的な問題をレギュラーキャラクターの対立劇にうまく落とし込んでいた。

*1:上映中でも後半にはCMで事実上のネタバラシをしていた。TVではきちんとした説明をせずに出番が無くなったわけだが、ミッシングリンク的にそのキャラクターの死に基づいたエピソードを連続ドラマでも描いておくべきだったと今でも思う。