法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『K-20 怪人二十面相・伝』

第二次世界大戦の回避された直後、つまりは連合国に統治されず華族制度が温存され階級差がより固定化されている社会。そのスチームパンクな虚構日本で、真と偽の怪人二十面相が、テスラ装置をめぐって争奪戦をくりひろげる。


佐藤嗣麻子監督が脚本も手がけつつ、山崎貴が脚本とVFXで協力した、空想科学冒険ドラマ。原作は未読だが、大幅に内容が変わっているらしい。
VFXの質は必ずしも高くないが、ロケやセットもふくめて作り物めいた軽い質感の映像で一貫しており、逆に最後まで引っかからず見ることができた。まさに劇作家による小説作品の映像化という感じだし、子供向け江戸川乱歩作品らしいリアリティだともいえる。


とりあえず、大幅にカットされた内容からの感想だが*1、大筋のまとまりは悪くなかった。争奪対象は明確で、伏線や見せ場の置き方もそつがない。明智小五郎との結婚をひかえた羽柴葉子の活躍も見所ではあった。
しかし、逆にいえば展開に意外性はなかった。怪人二十面相の正体は別のパスティーシュ作品にも先例があるし、他の名探偵ものパスティーシュでもモリアーティ教授に同種の正体が設定されているシリーズがある。その正体に見当がつけば、主人公の結末は完全に予想の範囲内。善良な富豪令嬢として階級差を否定しようと動き始める羽柴葉子も、怪盗を嫌悪しながら映し身となっていく主人公も、ステロタイプなキャラクターにとどまる。
格差社会も、もちろん作中で批判はされつつも、実のところ恋心を燃やすための障害として設定されているだけで、結末でも実質的に温存されている。
あくまで先行する映像作品の売りを模して、手堅くまとめたB級娯楽作品といったところ。

*1:ゴールデン洋画劇場で視聴したので、30分以上は尺がカットされている。いろいろと思わせぶりに描かれていた小林少年がクライマックスで不在だったが、これも描写が削除されたためだろうか。