「思うツボ」という表現を使う匿名記事は、さすがに初めて見た。意見記事くらいならばともかく。
http://careerconnection.jp/biz/economics/content_254.html
この調査は震災前と震災直後、さらに夏の節電を経験した後の家計行動の変化を追跡したものだが、そこではっきりと浮かび上がってきたのが、
「原発事故・放射能への不安や恐怖は、文系・低所得層・非正規雇用者・無業者ほど大きい」
という、動かしがたい統計的事実だったからだ。
調査結果に対して、
「文系や低所得者をバカにしたものだ」
という、見事なまでに短絡的な反発が相次いだことで、盛り上がった。もはや慶応大の思うツボだろう。はからずも、反発している人間自身が、
「無前提に、文系や低所得者をバカにしている」
ということを証明している。
ところで、調査結果は慶応大で公開されているのだが、引用された画像でのみ確認できる条件についても明記されている。
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2011/kr7a430000094z75.html
恐怖・不安感は、文系、低所得層、非正規雇用者、無業者、未就学児がいる人、東北3 県(福島・宮城・岩手県)の居住者ほど高い。
なぜ、東北3県や未就学児を持つ親の存在がBiz記事には書かれていなかったのだろうか。少なくともBiz記事の本文では全く言及されていない。震災直後より6月以降に不安感が増していることは一部ではなく全体の傾向であることや*1、あくまで1つの研究が示した統計的に有為な傾向にすぎないという観点も、Biz記事にはない。
ちなみに個人的には、不安に対してとった行動で、どの条件でも「自粛」が最大数であったというところが興味深かった。
ところで同時期に、おそらく理系の高所得層に入る有名人の、たしかに原発事故への不安を全く持っていないだろう意見も目にした。
このツイートは、確率についての典型的な誤解でしかない。つまり、原発事故等への不安を持たないことは、あくまで意見の正しさとは別というわけだ。
もちろん、田母神俊雄氏を原発維持派の代表や典型と安易に思うべきではないだろう。一方で、今でも社会や政治への影響力を残しているだろう人間の言葉ということも、注意しなければならないだろう*2。