法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『機動戦士ガンダムAGE』第28話 地球圏の動乱

兵頭一歩脚本。敵との対話はありえないと断言してクーデターを起こすフリットが、作中で敵からしか批判されないという、とても現代のTVアニメだとは信じられない回だった。
個人的には、敵との対話不可能性を主張する作品も、その諦念の真摯さによっては好みとなりうる。しかしこの作品の場合は、ただ主人公だから正しい、ガンダムだから戦うことは正しい、議長やヴェイガンは敵だから悪い、というくらいしか描写に厚みがない。


まず、地球連邦軍の著名な指揮官であるフリットが、地球連邦軍議長がヴェイガンと密約している程度のことを、わざわざクーデターのようにして明かす意味がよくわからない。どれだけ議長の政治力が高くても、相応の地位にあれば告発の方法は無数にあったのではないかという疑問がわく。せめて、様々な告発を試しては潰された無力さを描いておかないと、物語だとしてもリアリティがなさすぎる。
ヴェイガンが、最もうらんでいるだろう議長と密約をかわしていたという背後関係も不思議だ。火星殖民を主導し見捨てたのは正確には議長の親族だとしても、その親族との関係性を隠してヴェイガンとの戦争を続けているし、作中の演説も好戦的だ。もちろん政治家としてもヴェイガンを生んだ責任もあるだろう。まるで陰謀論者の妄想のように、悪事を全て議長勢力の責任に集約させるようとした結果、相互に矛盾する行動になってしまっている。
そしてフリットのクーデターを助けるように、タイミングを合わせて議長を暗殺しようとするヴェイガンも、よくわからない。議長が最も追い込まれた状況で復讐するという心理はわかるとしても、同時に最も強硬な主戦派であるフリットも暗殺するくらいの気概はほしい。


フリットの力で議長が極刑に処されるにいたっては、ヴェイガンとの対話ルートとなりうる存在を全く活用しないのかと、あまりの強行ぶりにひっくり返った。フリットの背後で様々な政治家が捕らえられていくイメージシーンが、軍事独裁体制の確立にしか見えない。
いっそ、ヴェイガンと地球連邦の間でもてあそばれたアスノ家の、『岩窟王』に近い復讐劇として描けば、面白いピカレスクロマンになったんじゃないか、と思うくらいに凄い内容だった。どう解釈するべきか。