法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『あの夏で待ってる』雑多な感想

減点法で採点して満点な上に、要所で見所を作っており、パッケージングという意味では完璧に近い。


基本的に、年上女房として異星人が押しかけてくるベタなラブコメだが、1クールで綺麗にまとめるために慎重に技法を駆使している。
特に巧みだったのが、ほぼ全員の思慕が一方通行ですれ違う展開を、中盤の沖縄編でまとまりあるエピソードとして提示したところ。黒田洋介シリーズ構成は中盤でけっこうダレることが多いのだが、ここで通常と独立した物語を入れたことで、うまく流れに変化をつけた。そして、いったん一つの物語を収束させて満足感を出しつつ、終盤の流れを予期させ期待させる。
影に日向に物語を転がしていった人物の正体は、良い意味で黒田洋介シリーズ構成らしい。御都合主義をひとまとめにして、伏線に転化させ、物語をきちんと締めくくったように見せる。過去の黒田洋介関係作品をパロディしたような台詞も、うるさくない程度に抑えられていた。
終盤の締めも、どうしてもハッピーエンドを望む観客へ見たいものを見せつつ、登場人物のその後を直接的に描くことは避けて余韻を作る。アニメ作品の前例でいうと『紅の豚』のラストカットを、よりわかりやすく、この作品ならではの切り口で示したといったところ。狭い人間関係で終始したドラマを最後の最後で開き、宇宙人などとは切り離されたリアリティある作中現実と接続し、同じように観客たる視聴者の現実とも擬似的に繋いだともいえる。


映像も安定して良く、絵柄という意味でも先鋭的でいて、突き放さないライン。特に、顎を突き出させた、意識的に口元の輪郭を平面のように引き延ばす骨格は、田中将賀キャラクターデザインの現時点での完成形であろう。同時に、現在の『BLEACH』あたりとも似ており、作画アニメ萌えアニメとして突き抜けすぎてもいない。
背景も美しく、人物作画となじんでいる。クライマックスには3DCGを適宜活用したアクションまで楽しめた。


惜しむらくは、減点するところがないだけに、魅力や話題性に転化するような歪さもなかったところか。様々な類似点がある『おねがいティーチャー』は、当時にアニメでリアルな田舎にロケーションした、美少女ゲームのような欲望肯定を正面から行ったという、独特の売りがあった。この作品は、過去作品の延長線上にあって、新しいものを感じさせるまでにはいたらなかった。