法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『クレヨンしんちゃん』祝! 放送丸20年! 春のクレヨンしんちゃん 映画公開スペシャルだゾ!

増井壮一監督『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦』の短縮版を放映。EDがカットされていて余韻が足りず、他にもカットされているような場面が散見されるので、全長版を見ないと実際の作品の印象はわからない。


とりあえず、『オトナ帝国の逆襲』ですら最終的には郷愁と対峙する幻想として肯定した家族を、留保なく全肯定できる共同体など存在しないと示したテーマ設定は良かったと思う。しんのすけが中盤まで完全に悪役に騙されているところも、映画シリーズでは初めてではないだろうか。
あまり嫌悪感の出るキャラクターがいなくてストレスのたまらない展開も、家族の思いがすれ違う展開に結びついていて面白い。家政婦が強力すぎるのは、いささか緊張感をそいでいたが。
終盤は、登場人物が全て真面目な顔をして衝突をくりかえしながら、台詞に出てくる単語が「おなら」や「屁」というシリアスは笑いが良かった。レモンがしんのすけにだけ真実の名前を教えて観客にすら知らされない、秘密をいだいたままの別離も情感あってなかなか。


ただし、中盤で敵味方が変わるどんでん返しを成立させるため、あまりに説明台詞を多用しているところはマイナス。しかも主人公側が説明を聞かされる展開に矛盾がある。レモンが真実を知って抗議すると、スパイが全てを知る必要はないと返されるのだが、ならばその場面で真実を知らされる意味がそもそもない。
映像も悪くはないが、演出も作画も、ラストの壮大な屁攻撃以外は、平均より良好なレベル。水上戦などの見せ場はあったが、『クレヨンしんちゃん』はTVでも折にふれて素晴らしい演出や作画が楽しめるので、映画ならばもう少し上を見せてほしかった。比較的に地に足のついた設定に終始したからこそ、細かい演出にはこだわってほしかったところ。