法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「全員オネエ系」な「新プリキュアが嫌だ」とツイートした乙武洋匡氏の誤謬

「こんな新プリキュアは嫌だ」というタグに「全員オネエ系」と投稿した[twitter:@h_ototake]氏が批判されている。
まとめよう、あつまろう - Togetter

上記ツイートを発端として、いくつか批判や釈明が行われているが、全体を見て、私も駄目だと思わざるをえなかった。
むしろ自己フォローのつもりらしい後のツイートで、逆に傷を広げてしまっている。せめて、自身の思想や現実社会とは独立したフィクションとして発言している形式を守るべきだった。

特に気にかかったのは上記ツイート。「アニメとしてナシしょ?」などと、個人が見る見ないとは別個に、共感を求めているかのような口調に過ちがある。せめて「嫌じゃなく好む人もいるだろうが、私個人は嫌というだけ」という姿勢を貫くべきだった。いわゆる「主語が大きい」問題だ。


具体的にプリキュアセクシャルマイノリティに関わる逸話を引いておくと、『フレッシュプリキュア!』以降のプリキュアEDは3DCGのダンスが慣例となっていたが、そのふりつけは前田健氏が担当している。『フレッシュプリキュア!』ではセミレギュラーの声優も担当。
前田氏は、下記のTogetterで見られるように、仕事への自負をツイートしていたこともある。
前田健さんのダンスへの思い - Togetter

後に下記のTogetterで、3DCG映像に起こすためダンスふりつけに独特の制約があるというツイートがまとめられ、なかなかメイキング話として興味深い内容になっていた。
スイートプリキュア♪のEDも前田健の振り付けだよ~♪ - Togetter
作品においても、『ハートキャッチプリキュア!』ではキュアサンシャインジェンダーを越境したキャラクターとして描かれていた。
朝日放送テレビ | ハートキャッチプリキュア!


病気がちなお兄さんに代わって明堂院流を継ぐために、強くありたいと願い、男子の格好をしている。本当はかわいらしいものも大好き。

「かわいらしいもの大好き」という説明文に注目してほしい。かわいらしいものが大好きという、異性装で抑圧されているキャラクターというわけはない。かわいらしいプリキュアの格好をすることを喜びつつ、同時に男装姿の自分も肯定し続けていた。
他にも同作品では、熱血少年が想像上でプリキュアになった姿として、キュアファイヤが存在している。つまり正確にはプリキュアではないのだが、今回の論争と比較して面白いキャラクターだ。
朝日放送テレビ | ハートキャッチプリキュア!

クラスメイトの番ケンジくん。
番くんは、とっても強いらしくて“伝説の番長”って言われているの。
街の番長集団をギラリとにらんだだけで追いやった伝説を持つ番くん。
そんな番ケンジの家へわすれものを届けに行くつぼみとえりか。


でも本当は、お花が好きで少女マンガを描くことが好きなやさしい男の子だったの。

この少年もまた、ジェンダーバイアスと異なる内面を、プリキュアによって肯定されたキャラクターであったのだ。


私は特にアニメ作品としてプリキュアをはじめとした魔法少女物が好きではないのだが*1、いわゆる「オネエ」が作品に深く関わっていることを知っている者として、乙武氏のツイートには違和感を持たずにいられなかった。
ちなみに少女が戦う女児向けアニメの先駆作では、『美少女戦士セーラームーン』が、北米においてゲイカルチャーから愛好されたといわれることも有名だろう。シリーズの後期ではセクシャルマイノリティと考えられるキャラクターも登場する。
個人的に、広義の「オネエ」に入りそうな戦う少女作品として、『魔法少年マジョーリアン』のTVアニメ化も深く希望する所存である。この少年達の性徴と性徴を魔法少女への変身で象徴化したマンガ作品は、『ふたりはプリキュア』の影響下にあるだろう。
むろん「全員オネエ系」な作品を好むか嫌うかは人それぞれだろうが、セクシャルマイノリティを笑いの素材として持ち出すには、乙武氏は熟慮が足りなかった。ネタだからこそ、単著も出している著名人として、慎重かつ本気になってほしい。

*1:「えっ」「いや、本当に好きなアニメは、『ドラえもん』のようなSF系アニメだったり、雰囲気アニメだったりするし」「えっ」「プリキュアは総体で見ると安定感のあるシリーズでもないし……」「えっ」