法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』いやなお客を帰しちゃえ/テストにアンキパン

前後半とも初期の原作を水野宗徳脚本でアニメ化したもの。作画も良好で原作初期の雰囲気があり、軽く笑える話ということもあって、新年一発目として頭を使わず楽しめる内容で満足。


前半は、他人との交流が仕事をかねているため正月もゆっくりできない社長が、部下の家に逃げ隠れようとして野比家へ闖入してくる物語。改めて見ると、社長という立場の大変さや、母親にとっての家とは何かという子供にはわかりにくい視点を前提とした描写が多いところが面白い。
秘密道具を駆使して追い返そうとするまでは原作通り。しかし原作以上に社長が野比家に執着し、二階の窓から入ってくる。それを「コエカタマリン」で追い返そうとしたら、実はお年玉をあげようとしていたという真相が、いかにも悪人を出さない水野脚本らしかった。
最終的には、コエカタマリンの効果で、「ありがとう」という言葉とともに社長が追い返され、空中に飛ばされた社長がカメラ目線で新年の挨拶をするというオチ。映像でオチを見せながら作品制作者の感謝が視聴者へ示されるという二重構造がシャレていた。
コンテは善聡一郎。メビウスの輪の説明で3DCGを使っていたことと、多くのカットで俯瞰を多用していたことが印象的だった。


後半は、高橋渉コンテ演出。原作では台詞だけですませていた学校ふきとばし作戦を実行しかけたりしたが、基本的には原作通り。
しかし特筆したいアニメ独自の描写もあった。のび太が記憶能力を示す描写で電話帳ではなく百人一首を使っているところが面白い。携帯電話の発達や、個人情報の関係もあって、最近の電話帳は薄く使用されることも少ない。このようなところで時代の変化を感じることになるとは、原作を読んでいたころには思わなかったな*1
しかも時代に合わせて場当たり的に変更したわけではなく、ちゃんと笑える描写に繋げていた。記憶を失ったことを示す描写で、ドラえもんが適当に選んだ上の句をいい、のび太狂歌のような下の句で返す。ドラえもんがそらんじられている上、『ちはやぶる』よろしく和歌らしい節回しがちゃんとできていて、困った表情との乖離が笑えてしかたなかった。正月らしい雅な要素でギャグ展開をすること自体が不意打ちで楽しい。

*1:前半でも、煙草を買ってくるよう社長が頼む場面があり、今回のアニメ化ではマッサージに変更されていた。子供が煙草を購入するという描写は今では考えられない。