法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ましろ色シンフォニー』雑多な感想

女子校と共学が併合する話が持ち上がり、試験的に共同授業を受ける集団の一人として主人公が選ばれた。そこで出会ったのは併合計画に反対する理事長の娘や、野生動物を自然に帰そうとする少女達。


いかにも成人向け美少女ゲーム原作らしい、よくある御都合主義設定かと思われた導入部。しかし、主人公は女生徒に協力して仲良くなりながらも、真摯な姿勢をつらぬき、恋愛感情を告白する相手は一人だけ。しかし、その行動が逆に女子校側の人間関係を崩してしまう。
そしてメインタイトルと同じサブタイトルの最終回1話前において、主人公に思慕をいだきながら隠していた少女達が、たがいに思いやり傷心をなぐさめる場面が情感たっぷりに描かれた。雪景色の公園で遊ぶ姿が、室内で恋人らしくすごす主人公の明るく暖かい様子と、対照的に演出された。
いってみれば、男性プレイヤーにとって都合良い構図を、選ばれなかった者側からながめて批評的に描いたといったところ。当初は主人公に反発しながらしだいに惹かれていった少女の痛みが、充分な話数をかけて描かれた。その前後は演出面でも極まっていた。
しかし、ここまではパロディやジャンル批判で見かける内容ではある。


最終回において、併合計画が中止になる可能性が浮上する。それまでも主人公まわりのドラマの不安感をあおる背景事情として暗喩的に描かれていたが、主人公がはっきりと行動してドラマが完結したかと見せた後で、現実の障害として立ち現れた。
しかし選ばれなかった少女の一人が理事長の娘として、共同体が壊れることを変化として肯定し、物語の当初では反発していた併合計画の推進を主張する。主人公に選ばれた少女も、作品マスコット的な野生動物を自然へ返すことになり、ひとつの痛みと環境の変化を体感した。ここにいたって、主人公まわりの小さなドラマと、物語の大枠が相似形を描いて自然に接続した。ジャンル批判を超え、共同体の変化と若者の成長が重なりあう物語となったわけだ。


最終回をしめくくるのは、選ばれなかった少女達の独白。視聴者が感情移入する対象に思われた主人公の少年は、いつしか物語世界を変化させた闖入者の役割に立場を移し変えていた。
いくつか粗い面も散見されたが、飛び道具を使わない1クールアニメのシリーズ構成で、今年のベストワークだったと思う。