法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒season10』第8話 フォーカス

過激な事件現場を直接的に写すことで賛否両論があった報道写真家の死と、加害者と被害者の真意をめぐる謎解き話。
監督は橋本一。狭い廊下を逃げまどう通り魔の逮捕劇をワンカットの長回しで演出していたところが印象的。作中写真も、ドラマを支えられるくらいには、良い絵にできていた。


さて、通り魔事件で多くの群集が被害者に目を向けなかったという導入は、西村京太郎の名作を思い出すところ。その題材が動機にかかわっていると推理して中盤に犯人が明らかになるのだが、実際には事件の発端ではなかったことも物語が進むにつれてわかっていく。
傍観者の群れは、あくまで写真家が選んだテーマの一つにすぎなかった。後半に入ると写真家が別のテーマを表現した作品が登場し、事件を報道することの意義や異議が様々な角度から物語られていく。先に群集心理という説明をし、つまり群集に対して個人の責任を強く問うことが難しいという心理的な伏線もあったので、このテーマの移行に不自然さがない。
現場写真だけ採用された組写真という作中表現で、報道による欠落と現実の多様性を象徴したことも素晴らしい。最終的に、週刊誌は過激なものばかり採用するという写真家の苦悩を通し、事件報道に多様性が欠落する責任が媒体や読者にもあるという説得力ある物語を提示した。
ただし結末で写真家が全肯定されているかのような描写は注意が必要だろう。被害者の様々な顔を写すためとはいえ、盗み撮りしていたことには変わりない。高尚なテーマをかかげれば良心が痛まず過激な表現をこなせてしまう、という問題も見ていて感じた。それをふくめて作中人物は悔恨や葛藤をかかえている描写があるので、物語としては問題ないが。