法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

白燐弾の虚現実(エアリアル)

白燐弾規制について書いた先日のエントリで、私はzyesuta氏のエントリから「リアリズム」の意味を簡単に引いた。
白燐弾規制というリアリズム - 法華狼の日記

リアリズムの考え方を一言で説明した名言がある。
「絶対善の実現よりもむしろ、より少ない悪の実現を目ざすわけである」(モーゲンソー 国際政治p3)
この観点から国際政治をみて、道徳的にベストではないかもしれないが、現実的にベターな選択ができるようにしよう、という考え方だ。

ざっくりと言い直すなら、ゆっくり進歩していこうという考えが「リアリズム」といったところだ。
ならば、徐々に戦争の制約を増やしている現代社会のありようもまた、一種の「リアリズム」と呼んでもいいのではないか。

上記エントリで私が「ざっくり」と明記しつつ言い直した文章に対して、コメント欄で「違います」との批判があった。よりによって、下記のようにzyesuta氏のエントリを「リアリズム」の定義確認に使えると評していたsaloth_sar氏からだった。
はてなブックマーク - リアリズム(現実主義)という理論があってだな - リアリズムと防衛を学ぶ

saloth_sar 本文とは無関係
昨今の誤解やイチャモンを見ると、「リアリズム」の定義をもう一度確認させるため、このエントリを再掲したほうがいいと思いますね。 2010/11/10

この論点についてコメント欄で応答が続いているが、内容らしい内容はない。「絶対善の実現よりもむしろ、より少ない悪の実現を目ざすわけである」という言葉をzyesuta氏が「リアリズムの考え方を一言で説明した」と紹介していることを私が指摘し、saloth_sar氏が無視するという流れだ。
まず、私は下記コメントのように応答した*1

hokke-ookami 2011/11/16 07:07

私がエントリで引用しているzyesuta氏の主張、および紹介した名言はざっくりいって漸進主義と読むべきものでしょう。
saloth_sarさんの理解力に合わせて修正するならば、注記で「煩雑になるため、このエントリでは「リアリズムの考え方」も「リアリズム」と表現する。」とつけくわえればよろしいでしょうか?

対するsaloth_sar氏の返答は下記のとおり。注記をつけくわえようかという提案には応答がなかった。

saloth_sar 2011/11/16 11:45

いやあ、その記事の最初における

リアリズムという言葉は、ただの慣用的な表現じゃない。
「あなたはリアリストだ」とか
「それはリアリスティックじゃない」とかいうとき、
それは単に「なんとなく実現可能性が高そう」というイメージで使われている。
でも、国際政治学において「リアリズム」は特定の理論(群)の名前だ。という理論の体系があって、それを使用して国際政治を説明する人を「リアリスト」という。

として、「リアリズム」は実現可能性が高い選択肢を選択していくことではなく、国際政治学上の学説の体系の話であると明確に述べている部分を無視されましても。

目を皿のようにして見ても、上記引用文は「なんとなく実現可能性が高そう」という「イメージ」を否定しているだけ。「なんとなく実現可能性が高そう」な選択肢を選ぶことを否定しているわけではない。そうでなければ「現実的にベターな選択ができるようにしよう」という認識をzyesuta氏が同じエントリの末尾で書くわけがない。

hokke-ookami 2011/11/17 07:21

無視していませんよ。ちゃんとzyesuta氏のエントリ全体を読んでいます。
しかし今回にsaloth_sarさんが引用した部分を読んでも、「国際政治学上の学説の体系の話である」ことが主張され、説明されているだけです。「実現可能性が高い選択肢を選択していくこと」が国際政治学上のリアリズムではないと説明されているわけではありません。
実際にはzyesuta氏は「絶対善の実現よりもむしろ、より少ない悪の実現を目ざすわけである」を「リアリズムの考え方を一言で説明した」と表現しています。エントリで引用し、前回コメントでも再引用しました。saloth_sarさんも今回コメントで引用しましたね。ならば反論するべき対象が何か理解されていなければなりません。
まさかとは思いますが、「考え方を一言で説明した」という表現が「ことではなく」という否定を意味している、とでも主張されるのでしょうか?

「考え方を一言で説明した」という主張によって提示された「一言」なのだから、それ単独であますことのない説明になる*2とzyesuta氏は提示したと解釈するべきだろう。
しかしsaloth_sar氏の返答は下記のとおり。

saloth_sar 2011/11/17 19:05

無視していませんよ。ちゃんとzyesuta氏のエントリ全体を読んでいます。 以下

読んだ上でこのような結論を下すならば、まあ貴方の文章まとめに関する能力について「ああ、そうなんですね」という他ない訳なんですけど。

これだけだ。「考え方を一言で説明した」という表現が「ことではなく」という否定を意味しているのかという問いには回答がなかった。
それでは、ここでzyesuta氏のエントリから、実際に「リアリズムの考え方を一言で説明した名言」がどう位置づけられているか見てみよう。
http://d.hatena.ne.jp/zyesuta/20081226/1230261277

まとめ

リアリズムの考え方を一言で説明した名言がある。
「絶対善の実現よりもむしろ、より少ない悪の実現を目ざすわけである」(モーゲンソー 国際政治p3)
この観点から国際政治をみて、道徳的にベストではないかもしれないが、現実的にベターな選択ができるようにしよう、という考え方だ。
だいぶ長くなったので、一先ずここまで。

そう、私が注目して引用した文章は、zyesuta氏自身が「まとめ」の段落で、そう位置づけている部分の全文なのだ。ならば「文章まとめに関する能力」は、「絶対善の実現よりもむしろ、より少ない悪の実現を目ざすわけである」という漸進主義と解釈できる名言を「リアリズムの考え方を一言で説明した」と紹介したzyesuta氏に対する判断となるべきだろう。
「なんとなく実現可能性が高そう」という曖昧な認識を否定しつつ、「絶対善の実現よりもむしろ、より少ない悪の実現を目ざすわけである」「現実的にベターな選択ができるようにしよう」と「まとめ」たことが間違っているというなら、saloth_sar氏のはてなブックマークコメントは「本質的には関係ありません」という指摘でなくてはならなかった。


saloth_sar氏は私とzyesuta氏の区別もつかないのだろうか。いや、きっと都合の悪いことはsaloth_sar氏に見えないのだ。scopedog氏との論争において、最初は「定義を構成するものではない」という文言があるという指摘を完全に無視していたように。
白燐弾擁護派の軍オタは想像以上にレベルが低いようだ。 - 誰かの妄想・はてなブログ版

>この「化学兵器禁止条約に規定された表剤 」に白燐が含まれていないからと言って、白燐が化学兵器ではないと断言できないわけです。
これは話が逆で、何故条約が出来る前から広く使われている白リン及び五酸化二リンがこの表に含まれていないかを考えるべき。発生する五酸化二リンの濃度のことやそれによる死者が殆ど出ていないことも併せて。

まず、「化学物質に関する附属書」の「これらの表は、第二条1(a)に規定する化学兵器の定義を構成するものではない。」については華麗にスルー。この文言に正面からは反論できないらしい。

定義の根拠とした資料に「定義を構成するものではない」という文言があることの指摘は、白燐弾の論争で誰の立場が正しいとしても、相応の意味があるはずだろう。
しかしsaloth_sar氏は最初に「これは凄いな、レベルが低すぎる」「よほどのバカ」*3とscopedog氏を評したあげく、『こんなのが「参考になる」とか評価している奴がいたら、頭がどうかしてるよ』とまで主張しながら文言を無視していた。根拠にした資料自体に根拠を否定する文言があるという指摘を、saloth_sar氏は参考にすることすら拒絶したわけだ。
上記エントリで「この文言に正面からは反論できないらしい」と指摘されてからは引用でふれつつも、やはり定義ではないという文言がある意味を素直に受け取ろうとしなかった。そうしてある時期まで「定義を構成するものではない」と明記された資料に固執して白燐弾化学兵器ではない証拠にしようとしたようだ。
しかし論争を追っていくと、下記エントリでのコメントのように、いつの間にか資料への言及が完全に消えていった。
saloth_sar氏(61氏)のコメントに対する反論2 - 誰かの妄想・はてなブログ版

具体的に相当する報道があまり見られていないからである。
もちろん自分の報道チェックが足りないだけかもしれないし、また取材規制などの障害によって報道されていないだけかもしれない。しかし、「ありそうに思える」という判断が「白リン弾の規制」という問題とリンクして判断される場合、自分はその判断は最低でもクラスター爆弾の事例程度の被害が実際に存在していることをもって判断するべきと考える。そしてそのような頻度で被害が発生している場合、いくら報道管制などがあったとしてもそれで完全に隠し通すということは困難であると考える。

saloth_sar氏(61氏)のコメントに対する反論3 - 誰かの妄想・はてなブログ版

報道が信用できないとは思わない。自分はそれが起こる頻度の事を最初から言っている。
この話は最初から「未酸化の白燐が「生命活動に対する化学作用により、人又は動物に対し、死、一時的に機能を著しく害する状態又は恒久的な害を引き起こし」ている」ということを理由に白リン弾化学兵器に含めるか否かという話をしているわけだから、自分はそのありそうに思えるかどうかという判断には必然的に化学兵器として規制されるべきか否かという判断がリンクしていると思っていると書いたことは以前のとおり。

これらのコメントを読むと、いったい「最初」とはいつのことだろう、「表」の話題はどこにいったのだろうと疑問をおぼえざるをえない。
また、頻度が少ないというsaloth_sar氏の印象自体が、上記コメントでも表わされているように報道が少ないという代物だった。「自分の報道チェックが足りないだけかもしれない」というコメントのように留保もしていたが、どう見ても不充分だ。
そもそも、規制されるべき問題の大きさと報道の大きさが比例するという立脚点からして、間違っているといわざるをえない。兵器に限らず、規制というものは、必ずしも規制対象の問題性に比例しているわけではないことと同じように。
しかも「報道が信用できないとは思わない」というsaloth_sar氏のコメントは、scopedog氏が下記のように報道を並べたことへの返答である。
saloth_sar氏(61氏)のコメントに対する反論3 - 誰かの妄想・はてなブログ版

アムネスティの報道
2009/1/19
Everything you need to know about human rights. | Amnesty International
2009/1/21
http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=583
ガーディアンの報道
2009/1/21
Gaza doctors struggle to treat deadly burns consistent with white phosphorus | World news | guardian.co.uk


この程度の報道では信用できないというのも、まあ個人の主観の問題と言えなくはないと思いますけど・・・。

信用できないという意味ではなく頻度の問題だとしても、複数の報道があるという指摘が重要なことに変わりはない。scopedog氏の「個人の主観の問題と言えなくはない」という優しさに甘えているのか。


ちなみに、saloth_sar氏との間で以前にも少しやりとりしたことがあった*4。その際に、はてなブックマークで下記のようなコメントをしているのを見つけた。
はてなブックマーク - 個別「20091001223830」の写真、画像 - きゃぷ - lanove's fotolife

saloth_sar
http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100818/1282142762 にはこれを貼って終了とすれば良かった気もするが、ちゃんと書いたワタクシはとても偉いと思いますね。 2010/08/19

「これを貼って終了とすれば良かった」という画像は下記。

有名な画像*5だが、しかして実際には当のsaloth_sar氏こそが現実を直視することから逃げ続けている。
「絶対善の実現よりもむしろ、より少ない悪の実現を目ざすわけである」というリアリズムの説明を誰がしたのか、誰が「まとめ」として示したのか。
何よりも、白燐弾についての様々な「現実」を無視して現状を維持しようとする主張を、下記コメントのように今なお撤回しようとはしていない。

saloth_sar 2011/11/17 19:05

自分の主張は未酸化の白燐が降り注ぐ度合いが、化学兵器として規制される水準には達していないという意味において「ほとんどありえない」という選択肢を選んだのであって、そういう例が存在しうるという可能性についてはまったく否定していません。
D_Amon氏のエントリについても、そのエントリで言われていることは焼夷兵器としての使用の可能性についた話であって、自分が一貫してしている化学兵器としての規制の可能性についての話とはそもそも別の話です。

その上で白燐弾化学兵器としての規制についての意見について述べるならば、以前と全く変わっていません。

D_Amon氏のエントリ*6に「黄燐が猛毒であり体に突き刺さったままであればその毒の影響を受ける」という記述があることも読めず、使用法によって変化する白燐の酸化度合いを固定された性能のように今も認識している。
そして先述のように、報道があまり見られていないことを根拠として「ほとんどありえない」と頻度を判定した。複数の報道が提示されると、その頻度については評価しなかった。そして今も上記のように私のエントリで主張を変えないと宣言している。。


saloth_sar氏の見ている現実とは、いったいどのような風景なのだろうか。

お前がそう思うんならそうだったんだろう お前ん中ではな
だがそうではなかった
お前の中でももはやそうではない そうではなくなったんだ
そうではなくなったのに
お前はまだそう思うことにしている

*1:引用内引用の表記を引用符から引用枠へ変更した。以下、コメント欄からの引用は全て同様に変更する。

*2:むろん、説明するということはそれそのものであるという意味ではない。私も「リアリズム」と「リアリズムの考え方」は別と考えている。

*3:「よほどのバカ」という表現は先にscopedog氏が用いていたが、あくまで仮定形であり、そのような人物はいるはずがないという表現方法にすぎなかった。しかしsaloth_sar氏はscopedog氏に対して仮定形などでなく「よほどのバカ」と返した。

*4:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100819/1282233568

*5:元は『少女ファイト』という作品の台詞だが、『ひだまりスケッチ』という作品の画像を改変して入れ込んだコラージュだ。

*6:http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20111114/p1