法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ミステリクロノ』久住四季著

時間を操作する道具を落とした天使と、神主の孫である主人公が出会い、小さな事件が起きる、特殊設定ミステリのシリーズ一作目。


今作で使われるのは、記憶から肉体の損傷まで、注射された人間を全て過去に戻してしまう道具。他に落としたという時間を操作する道具は登場せず、その能力も語られない。リセット能力を持つ道具も登場するのだが、ミステリ展開には関係しないまま終わった。
あくまで道具が奪われた経緯と、それを推理して犯人を特定するところがミステリとしての要点。しかし論理に粗が多い。単独犯であれば特定できるが推理は難しくないし、単独犯とは考えにくいという推理は共犯者が誰かを特定することができない。しかも道具が奪われた経緯に、道具の設定こそ関係するものの、時間操作は基本的に関係しない。
良かったのは道具を奪った動機と、それがいかなる罪に値するかという、いわゆるホワイダニット


ミステリとしては残念ながら薄味で、あくまでシリーズ一作目として基本設定を説明する基礎編と、短編レベルのトリックを使った応用編を合わせた作品といったところ。
一方で、時間の流れが人間と異なる「天使」ならではの感覚の差異は、きちんとドラマ展開に繋がっていた。ジュブナイルSFとしては楽しめる出来。