法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バカとテストと召喚獣にっ!』第8問 ウチと日本と知らない言葉

少女の視点で主人公の少年を見つめ直す、番外編的な内容。主人公の印象を下げて上げる王道の内容を、堂々と正面から見せて成功していた。
浪花節でベタベタになりすぎないよう、少女の一人称が誕生した経緯を見せた瞬間、一気にEDへきりかえるドライさが心地良い。


表現主義的な演出もハッタリだけで終わらない。ドイツ語で話している場面をサイレント映画風に字幕で見せ、かぶさる少女の独白が日本語でも帰国子女の台詞を翻訳しただけだと感覚的に理解できる。場面ごとに用いられている言語の差異をわかりやすく見せることは、今回の物語では必須。そしてそういう説明的な演出が、他の表現主義的な演出のおかげで浮かず、全体のトーンが一貫している。
個々の演出技法は、大沼心監督が以前に手がけた『ef - a tale of memories.』を思い出すカットが多い。今回のコンテ演出から作画監督まで坂本隆というスタッフが手がけているものの、インターネットを検索しても仕事が他に見つからない。きっと偽名だと思うが。


ただ、おそらくは原作の問題だと思うが、ドイツで育った少女が、ピンク色のセーラー服を少年が着ていることに違和感を持つ描写は首をかしげた。スカートまで履いていたなら理解できるが、もともとセーラー服は水兵の服装であり、日本文化についてくわしくないドイツ出身者がそのまま女性の服装と考えるものだろうか。
同様に、校内トイレの男女を区別するため、色で区別しようとする描写にも大きな疑問符がつく。ヨーロッパでは、ジェンダーを色で区別する風習は主流ではないはずなのだ。
トイレの男女表示は何色?

 トイレを色で区別する習慣はヨーロッパにはないらしい


これは、そう、いわれてみればそうでした。どうも、いつもトイレに行く度にちゃんと入口の表示を確かめないと分からないのは、そうか、色で区別できないからなんですね!フランス語圏では Messieurs / Dames と書いてあり、ドイツでは Herren / Damen (Dame ?) なのですが、うちの研究室の学生(男)が彼の地の学会に発表しに行った時には迷わずDと書かれた方に入っていって、出て来る時にはちあわせたおばさんに変な顔をされた、といっていました。HでなくDを選んだのは「直観的に」こちらが男に違いないと思ったそうです。しかもそんな奴が2人もいた!

で、ともかく、日本のトイレのマークに似た絵文字(ピクトグラム)がドアに描いてあることもありますし、トランプのジャックとクイーンの絵だったことも(なぜかキングではなかったように思う)ありますが、大抵はどちらも黒い文字で言葉またはその頭文字(もちろんイタリアを除く)で書いてあるだけのことが多いです。ドアの色も大抵は白。

ジェンダー観が自由なようでいて保守的なジェンダーロールを前提にしていることが多い日本サブカルチャー、という話へ繋げるのは即断にすぎるだろう。
しかし、実在する異文化圏の視線で自己の文化圏を語ることの困難さを象徴する事例ということは確かだ。異なる文化圏から日本の風習をながめることが主題の作品でないにしても、こういう豆知識を作品に反映すればリアリティがぐっとあがっただろうに、という残念な印象が残った。