法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

女子挺身隊と従軍慰安婦の混同は朝日新聞記事の責任?

[twitter:@neon_shuffle]氏から言及があった。「徹底的に潰します」*1と宣言しながら私の応答*2に反応を見せていないことについて、まず何らかの説明を聞きたかったところだが、今回は見逃そう。

これだけ短い文字数で文脈の読解から歴史認識まで複数の誤りが見られるのは、ある意味で凄いと思う。


まず、neon_shuffle氏が言及したエントリを見ればわかるように、私が韓国サイトを引いたのは、あくまで話題となっている広告の掲載元と推測されたためだ。
いいかげん慰安婦募集の新聞広告を持ち出すことはやめるべき - 法華狼の日記

流し読みだけどそこらの2chの議論の域は出てないな。 いつぞや、韓国の慰安婦支援団体が「強制連行の証拠!」とか言って慰安婦の求人広告出してきた時には大笑いしたけどな。
nakatsukuniaki 1 day ago

ああ、私もエンコリで見て大笑いしたわ。まぁ、なんと云うか、ソース探して突き出せば簡単な話だよ。
nec0lt 1 day ago

おそらく当該の広告とは、下記ページに存在する「慰安婦支給大募集」「『軍』慰安婦急募」と書かれた広告のことだろう*5。
http://www.hermuseum.go.kr/sub01/sub01_01.asp?s_top=1&s_left=1&s_deps=2

*5 こちらのエントリから判断した。http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20061004/ianfu

lovelovedog氏のエントリには「エンジョイコリア」で慰安婦募集広告が話題になったむねが書かれており、その画像引用元として問題の韓国語サイトが指摘されている。
文章を引用したのも、「多種多様な状況へ目配りされた認識である」ことを示すためであり、「手直しせずエキサイト翻訳を用いただけなので、誤訳の可能性はある」という注記もしている。引用した文章の正確さについてはいくらか留保した。


次に、「学校や官庁を通じて勤労挺身隊院で女性を動員して日本軍慰安婦被害者になることもした」という文章は、そのまま受け取れば必ずしも間違いではないし、neon_shuffle氏の解釈とも異なっている。
あくまで従軍慰安婦にされた経緯の一例として挺身隊として動員されたことが紹介されている。引用した範囲だけでも慰安婦にされた多種多様な経緯が書かれており、挺身隊はあくまで慰安婦という集合の一部という認識で書かれてあることは自明だ。
現在も韓国が「慰安婦と挺身隊を混同している」と認識するのは、対立する意見に誤りを見いだそうとneon_shuffle氏が願望した結果の誤読でしかない。


また、植村隆記者が従軍慰安婦についての報道記事を書いたのはいつのことと思っているのだろうか。実は、neon_shuffle氏が示した認識は、慰安婦制度を擁護したがる人がよく用いていて有名なのだ。
http://www.seisaku-center.net/modules/wordpress/index.php?p=25*3

まず第一に紹介すべきは、平成三年の八月十一日の朝日報道である。これはソウル発・植村隆記者の手になるものだが、「従軍慰安婦」報道の原型を形作ったともいえる象徴的な記事である。

日中戦争第二次世界大戦の際、「女子挺身隊」の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」のうち、一人がソウル市内に生存していることがわかり、「韓国挺身隊問題対策協議会」が聞き取り作業を始めた。……テープの中で女性は「思い出すと今でも身の毛がよだつ」と語っている。体験をひた隠しにしてきた彼女らの重い口が、戦後半世紀近くたって、やっと開き始めた。〉

 一読してわかるように、ここで朝日は〈「朝鮮人従軍慰安婦」は「女子挺身隊」の名で戦場に連行され〉と明確に書いている。つまり、「従軍慰安婦=女子挺身隊=強制連行」という後に韓国でも一般化される図式を、ここではあたかもそれが厳然たる事実でもあるかのごとく示しているわけだ。

上記ページでも「後に韓国でも一般化される」と説明しているように、あたかも植村隆記事によって挺身隊と慰安婦が同一視されたという説が根強い。実は私も類似した説を主張された経験が過去にある*4朝日新聞記事の影響力を大きく見積もる人は少なくない。
しかし実際には1980年代の時点で、挺身隊と従軍慰安婦問題が深い関係を持つという認識が韓国に存在していた。
http://sengosekinin.peacefully.jp/issue/issue2/nenpyou.htm

1988 年

2 月 韓国教会女性連合会の尹貞玉ら三名が、福岡から沖縄まで慰安婦の足跡を追う調査

7 月 韓国教会女性連合会、「挺身隊研究会」設置

1989 年

1 月 韓国女性団体連合が昭和天皇の葬儀への弔問使節派遣に反対する声明書発表。「挺身隊問題」にも言及して日本に謝罪要求

上記ページでは言及されていないが、1990年5月に韓国の女性団体から出された「挺身隊」問題を問う共同声明について、吉見義明教授が「なお、韓国ではこの時期には挺身隊と慰安婦が同じものとみられていた」と説明している*5
つまるところ、1991年の植村記事で慰安婦と挺身隊を同一視されていたとしても、それは植村記者が被害者側の認識をそのまま報じたということしかありえない。もちろん引用された植村記事をよく読めばわかるとおり、あくまで挺身隊の名目で従軍慰安婦にされた被害者という報道にすぎず、慰安婦と挺身隊が同一という記述ではない。
もし、neon_shuffle氏が植村隆記者の捏造記事が発端となって慰安婦と挺身隊が同一視されたという主張を行ないたいなら、少なくとも1980年代以前に慰安婦と挺身隊を混同しかねない記事を植村記者が書いていたと証立てなければならない。


最後に、もちろん韓国語でも「慰安婦」と「挺身隊」の表記は異なる。それぞれ「위안부」と「정신대」だ。文章を引用した元ページでも区別して表記されている。
「翻訳する際も両者の区別はない」というneon_shuffle氏の認識は、いったいどこから来たのだろうか。