法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

こんな揉めかたをするくらいなら、最初からロフトプラスワンでやれば良かったのに

ロフトプラスワン」とは様々な話題のトークライブを行っている新宿の居酒屋のこと。声が大きい者同士の「揉め事」を目にした時、たまにエントリタイトルのようなことを思う。


そして先日の「6.11新宿・原発やめろデモ」*1におけるマイク強奪事件に対しては、二重の意味でエントリタイトルとして書いたことを思った。
ヘイトスピーチに反対する会の行動を支持しません - 情報の海の漂流者*2

日の丸を持った男性が、論壇にあがり、ヘイトスピーチに反対する会の行動に抗議し始めたところ、ヘイトスピーチに反対する会の常野氏が乱入しマイクを奪った。

「僕は本当は右翼じゃないけど、右翼の活動家の針谷さんという方が、統一義勇戦線の(ママ)、そのかたが本当は出る予定だったんだ、でも一部の勘違い左翼が、出すなというような馬鹿なことを言ったんだよ。俺は本当を言うと日の丸も君が代も反対なんだけど、今回だけは日の丸を掲げさせてもらう。そんなふざけた話があるか」
(ここでヘイトスピーチに反対する会メンバーが強引にマイクを奪う)
http://www.youtube.com/watch?v=boYumfuaEh4

ここでマイクを奪ったのが常野氏であることは本人も認めている。

しかし、他者が主催するデモにおいて、「自らと歴史認識が反する人が論壇に上がるなら妨害する」と脅すことは全く賛成できない。
脅すだけではなく実際に実力行使をして、相手を騙されてしまうというのは尚更だ。
しかもマイクを引っこ抜いて黙らせた主張というのが、自らに対する批判であると来た時には……

さて、上記エントリで[twitter:@fut573]氏が指摘していない要素がふたつある。


まずひとつめ。引用されている動画の4分以降、つまりマイク強奪の直前に「ヘイトスピーチに反対する会」公式ブログで報告されている出来事が映っている。
ヘイトスピーチに反対する会 「6.11新宿・原発やめろデモ」集会で何があったのか

集会もなかばに差しかかったころ、ある俳優が「福島でこんな災いを受けねばならない理由は、日本人は世界に誇れる民族だから」と壇上から発言したのにたいして、わたしたちは「レイシスト」と抗議しました。するとその俳優が「文句があるんだったらいつでも来い」と言うので、わたしたちはステージ脇にすすみました。
ところが、そのときステージ周囲にいた主催関係者は、わたしたちの話を聞くこともなく、突き飛ばす、腕を引っ張る、抱きつくなどして制止に入り、「いつでも来い」と言った俳優とわたしたちが話すことすら妨害したのです。

こちらでは、登壇することを要請もしくは挑発された「ヘイトスピーチに反対する会」が、実力によって排除されている。
むろん、「他者が主催するデモ」であれば、登壇を実力で妨害されても主催者判断ならばしかたないということもできるだろう。しかしfut573氏自身がURLを紹介し、コメント欄でも指摘されている[twitter:@yu_hirano]氏の下記ツイート全体を見る限りでは、「ヘイトスピーチに反対する会」が完全な他者とはいいがたい。

主催関係者が「デモ防衛という任務」を求めていたということは、ある種の協力団体という認識があったということだろう。
一方でyu_hirano氏は下記ツイートのように「ヘイトスピーチに反対する会」が主催者ではないことも明言している。

たしかに、デモにおいて主催者と参加者の間に一線を引くことはできるし、それが重要な局面もあるだろう。しかし無償で行動するデモにおいて、実際にはあいまいな領域も多い。そうでなければ見返りも用意できないのに「任務」を与えることなどできない*3


そしてふたつめ。fut573氏も引用している[twitter:@toled]氏のツイートからうかがえるように、マイクを強奪された者は、そもそも「台本」にない「サプライズ」な行動をとっていた。
6.11新宿中央公園を中心とする経緯の確認 - 過ぎ去ろうとしない過去

まあ、先ほど紹介したブログに反論しておけば、まず日の丸君の登壇自体がサプライズだったこと、そして、会が批判されたことに対して抗議したのではなく、報告にもあるとおり、日の丸を掲げて壇上にあがったことに対して、それからまさに「俺は本当を言うと日の丸も君が代も反対なんだけど、今回だけは日の丸を掲げさせてもらう。そんなふざけた話があるか」というふざけたことを言っていたことに対して抗議したわけです。

自身も「サプライズ」な行動ばかりとっているtoled氏には、相手が壇上にのぼったこと自体を批判する資格はないし、たぶん今後に批判することもないだろう。611デモとわけて考えても、デモにおいて勝手に登壇するような行動自体が批判しにくいとも思う。
しかし、主催が呼んだわけでもないのに壇上にのぼって演説を始めたのであれば、少なくとも進行の妨害くらいには見なせる。事実、要請もしくは挑発されて壇上にのぼろうとした者が、主催者側から実力をもって阻止されたばかりだ。
勝手に始められた演説を阻止したということは、すなわち先に引用したyu_hirano氏のツイート通り、「デモ防衛という任務」をはたしたということでもある。むしろ主催関係者から求められていた仕事を行ったという評価を行うことすら可能だ。結果論にしても、ここでのマイク強奪は暴力どころか実力行使の妨害と呼ぶことすら難しい。


だから、fut573氏は実力行使であるかのように見えるマイク強奪にこだわらず、たとえば下記ツイートで指摘している「妨害予告をするような人物が出れば必要なリソースが跳ね上がる」といった主張を大事にするべきだったと思う。

また、[twitter:@hokusyu82]氏とやりとりして修正したように、やはり最初からtoled氏個人を批判する形式でエントリを書くべきだった*4。議論をへた上で会の方針を決めたのならば、議論前の会員が行った主張を会のそれと同等にあつかってほしくないという感情は自然なものだと思う。せめて「ヘイトスピーチに反対する会」の会員が起こした行動というくらいのクッションをはさむべきだったかもしれない。
ちなみに、もし直前の出来事がなくてもマイクを奪わなかったかとtoled氏に問えば、奪う判断に変わりはないと答えそうな気はする。時系列から判断すると、toled氏がマイクを奪った時点では、相手が予定にない行動をとっていたと確信できていなかっただろう。しかし、かねてからtoled氏が対立運動の暴力性ではなく主張の誤りだけ批判する背景には、“正しさ”のハードル下げに在特会が利用される現在への問題意識がある。611デモでも針谷氏の擁護意見として在特会を批判していることがあげられていたわけだから、toled氏の問題意識そのものは重要だと思っている*5
ちなみに私の感覚では、勝手な登壇もマイク強奪も、この種の政治活動では特に暴力的でもない部類と思っている*6。仮に、別の揉め事へ関連していなければ登壇や強奪そのものは互いに批判せず、主張内容だけ批判しあったのではないかと思っている。むろん、これは現場にいあわせなかった外野の感覚にすぎない。たとえば「ヘイトスピーチに反対する会」が挑発に乗って混乱したため勝手な登壇を許してしまったという見解もありうるかもしれない。


そして611デモ全体を見て感じる問題点をいえば、主催者内部ですら充分な議論を行わないまま登壇者を決め、その結果としてかはわからないが不透明な登壇中止にいたり、「ヘイトスピーチに反対する会」に「任務」を与えたかのような認識を表明したyu_hirano氏が、最も軽率にすぎたのではないだろうか。今回に限っていえば、いつものtoled氏より軽率に思ったくらいだ*7
仮に、yu_hirano氏が席亭となっているロフトプラスワンでなら、同じような登壇者の選定でも批判意見はほとんど出なかっただろう。
極端に誤った見解を持つ登壇者がいても、論争を前提としたロフトプラスワンであれば、登壇者の意見が主催者や参加者と同じではないことが共通理解されている。個別の意見を内包しつつ、全体でひとつの言論を指向するデモとは違うのだ。
また、他にも主催者がいて無償の協力者も多数必要だった今回のデモと異なり、ロフトプラスワンはyu_hirano氏が責任者なのだから個人の判断で登壇者を選定しても許される。もし問題が起きたとしてもyu_hirano氏の責任で事態を収拾することができるだろう。だが、基本的に無償で協力者をつのるデモにおいては、主催者の意図でデモ全体を制御することなどできないし、そもそも611デモにおいてyu_hirano氏は主催者を代表してすらいなかった。
あるいは、対立する論者を呼ぶことが、単純に賞賛されるべきことだとyu_hirano氏は思っていたのかもしれない。たしかに多様な意見がぶつかりあうことは、一つの価値ある論争につながるだろう。もし一方が明らかに誤っていたとしても、その誤った意見を広く公開させることで批判の俎上にあげられるという見方もある。だからロフトプラスワンという場所には大きな価値がある。

だが実際には、登壇者を事前に選定している以上、どれだけ「多様」な意見であっても主催者の意向が反映されていることには変わりない。ある者を登壇させたならば、その分だけ別の者が登壇できなくなる。その意味でも、勝手な登壇とマイク強奪が対になるといえる。
そして主催者の意向で登壇させようとした以上、批判に反論したいならば、登壇させるにたる説得力ある説明が必要だった。「画期的」というだけであれば、たとえば誰の目からも明らかに誤っているようなことは前例が生まれないわけで、それ自体が登壇させる理由にはならない。
せめて主催者内で共通理解がされていて、問題が起きてもいいから試しに登壇させるというくらいの覚悟を見せてほしかった。そこまで断言して話を進めれば、批判はされたとしてもボイコットだけですんだかもしれない。だが実際には主催者内でも決着がつかず、登壇の中止にいたった。

そして[twitter:@kdxn]氏のように登壇予定者が信じている偽史を擁護する態度は、相手が批判している文脈に乗ると同時に批判の説得力を高める、まったくの下策だ。せめて偽史を信じていることは批判した上で、登壇させるにたる理由の話題と切り分けるべきだった。

まず全く誤りのない人間はいない。致命的に感じられる誤りであっても、徹底的に批判することで、逆に登壇そのものは批判しないでもいい状態にできたかもしれない。
しかし順番に一人ずつ登壇していく611デモでは、登壇者への批判は難しかったろう。だから、最初からロフトプラスワンでやればよかった。そんな感想を今さらながら無責任に思い浮かべる。

*1:以下、611デモ。公式サイトはこちら。http://611shinjuku.tumblr.com/

*2:ツイート引用をはてな記法を用いた記述に変更した。「相手を騙されてしまう」は原文ママで、おそらく「相手を黙らせてしまう」の誤記だろう。

*3:ただし、後にumezox氏から「これ事実と違います」と指摘され、yu_hirano氏は「ヘイスピの会にはそういった任務はありませんでした」と訂正した。https://twitter.com/#!/umezox/status/81335681024139264https://twitter.com/#!/yu_hirano/status/81319704546910208が当該のツイート。

*4:会員の発言を会全体の問題と見なすことによって、登壇者が別の場面で問題発言を行っていたことへの批判を皮肉っている可能性も感じたが、やりとりを見る限りは違っていたらしい。そもそも、主催者の能動的な登壇選定を問題視していた「ヘイトスピーチに反対する会」に対しては、うまい皮肉になっていなかったと思う。

*5:ただし社会運動でふるわれる暴力の位置づけも重要な論点になると私は考える。

*6:この種の感覚が政治活動への忌避を生み出す問題も考えられるが、話が広がりすぎるので今回は深くふみこまない。

*7:むろん、主催者側の公式発表が少ない現状での、限られた視点による感覚にすぎないので、比較評価が正確とは思っていない。たとえばhokusyu氏のエントリに対しても、はてなブックマークでb:id:kybernetes氏から「平野さん、会議にはちょくちょく顔を出していたよ。」との指摘がされている。http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/hokusyu/20110620/p1