アニメオリジナルのAパートと、原作者死後に単行本収録された話をアニメ化したBパート。今回はどちらも限界までふりきったバカ話。
Aパートはアニメオリジナルといっても、バカ*1になる秘密道具を意図せずしずちゃんに設置してしまった後の展開は、原作短編「時限バカ弾」とほとんど同じ。
しかしコンサートを前にして緊張するしずちゃんを描き、最後の最後に「バカ」になることを肯定したことで、原作とは異なる味わいに昇華していた*2。やっていることがバカ騒ぎなので、泣かせが鼻につくこともなく、後味が良かった。
全般的に作画も良い。特に、バカになった人間のバカ踊りが、かなり作画枚数を使った柔らかい動きを正面から長い1カットで見せ、楽しいしあがりだった。作画監督は田中薫。
Bパートはタイムスリップによる時間改変を扱った物語。
5人の同一人物が登場する「ドラえもんだらけ」を超える、6人の同一人物が登場する。しかし、今回の物語には緻密さがかけらもない。時間改変しようとする主体がのび太なので、時間改変の目的からしてプラモデルを買うかカップ麺を買うかで最良の選択をするためだけという馬鹿馬鹿しさ。時間改変のリスクを全く恐れていないため、異なる望みを持つ存在として正面から過去の自分へ時間改変を強要する。
整理すると、のび太Aが選択しうる未来から来たのび太Bが主人公となり、別の選択をした未来から来たのび太Cとの間で、のび太Aの選択権を争う。そして暴力に発展したため回避しようとのび太ABCそれぞれの未来が止めに入る。最終的にのび太Bとのび太Cの未来が消え去り、のび太Aが第三の選択をしたのび太Dとなった。……という解釈でいいのか、自分でも不安が残る。
異なる時間軸の自分同士が対立する展開はタイムスリップSFの1ジャンルだし、特に藤子F作品では多用されているが、ここまで混沌とした内容はさすがに珍しい。どう考えてもタイムパラドックスが起きていそうなのだが、パラレルワールド分岐型のタイムスリップと考えると、決定的な破綻は起こしていない。頭のいい人が決定的な問題は回避しつつ徹底的にバカな展開だけを目指したバカ話。
ちなみに、原作では省略されていた結末にいたる過程がアニメオリジナル描写で補完されていたが、既存の秘密道具を使いつつ肝心な場面はごまかしていた。既存の秘密道具を組み合わせて説得力ある補完描写をしていた「神さまロボットに愛の手を!」に比べると、補完描写として弱い。これなら、複数ののび太が無理やりタイムマシンに乗って迷走する一コマですませた原作のままでも良かったな。