法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

火力が原子力の代案にならないという主張がよくわからない

たとえば火力や水力にきりかえても環境負荷はかかるから、原子力の代案にならないという主張がある。しかし長所短所を総合して同等か、それ以上に優れるなら代案として充分に成り立つと考えなければおかしい。
十全に良いものを志向し続けることが必要だからこそ、少しでも良いものを志向する過程は否定できないはずだ。


そんなことをAmerikan氏のエントリを見ながら思った。
http://d.hatena.ne.jp/Amerikan/20110326/p1
まず本題ではない部分に疑問を一つ。

ジュニアアイドルだからって、中学生だからって「えらいねすごいねがんばったね」
じゃなくて「一人のブロガー」として向き合っていくべきなんじゃなかろーか、
と俺は思うね。有事とか関係ないっつうの。

確かに発言者の年齢を考慮して発言を評価するべきでないことは、一般論としていえるだろう。さらに「ジュニアアイドル」という立場も、発言の影響力から考えて、同年代の一般人より責任を重く見るべきだと思う。胃が痛くなるようなコメント欄の状況を見ても、藤波心氏が神輿のように扱われる危険性については、Amerikan氏の指摘が妥当だろう。
しかし藤波心氏の「中学生」という立場は考慮してもいいのではないか。むろん相対的に主張を持ち上げるべきということではない。言及されている対象は原子力発電所であり、狭義の政治もからんでくる。選挙権を持つ成人ならば、様々な政策に対して、いくばくかの責任を負っていると考えられるだろう。だが中学生ならばこれから選挙権を持つ立場として、国策に対する意見は準備期間のそれと考えることもできる*1
過去に原子力政策を追認するような投票行動を行っていたのではないかという普遍的な問いかけも、中学生に対しては原理的に成り立たない。少なくとも成人に求められるよりは責任が軽いと考えるべきではないか。


それでは、本題の原子力発電所について。

原発は「解体して後始末」することが時間とお金と手間がものすごいかかるわけだ。
そこを認識していないとダメだよね、ってことなんだよね。

それはまさしく原子力発電所の「デメリット」そのものだろう。普通なら、そのデメリットを考慮してまで原子力発電所を新設するべきなのかという話になるのではないか。それなのに、すでに建設して運用されている原子力発電所を持ち出して反原発主張を批判しても筋が通らない。まるで社員に馘首をちらつかせながら搾取するブラック企業ではないか。
原子力発電所が運用されている責任は選挙権も持たない中学生にあるわけがない。逆にいうと私もふくめた選挙権を持つ世代は「時間とお金と手間がものすごいかかる」原子力発電所を作って残した側として、中学生の反原発主張に向きあわなければならないともいえる。

というかね、リスクを「誰か」とか「地方」に押し付けている面では他の火力にしろ水力にしろ風力にしろ地熱にしろ変わらないわけだろ。

原発のデメリットに比べたら火力や水力のデメリットなんて可愛いもんだと思う」「東京という大都会の電力を支えるために、犠牲になった福島県・・・」*2という藤波主張への反論だろうか。
確かに水力発電所も地方への負担を押しつけていることは事実だ。むしろ原子力よりも建設場所が限られる。風力発電所も騒音被害などがないわけではないし*3、火力発電所も大規模なものは現地の負担になりやすい。
だが、たとえば六本木ヒルズから東京電力へ提供されている電気は火力によるものであって、原子力によるものではない*4。火力は原子力より消費者が身近に引き受けることができるし、実際に一部ではそうなりつつある。
原子力発電所と大規模火力発電所の立地を見比べてもいい。大都市の近辺にある率は、明らかに火力発電所が上だ*5福井県から遠距離を送電して大都市に供給するような無駄は、火力発電所の場合は必要性がほとんどない。


最後に、批判すること自体には異議がないが、比較評価が誤っているように思える部分を一つ。

福島原発の煙が、不謹慎かもしれませんが、そんなパンドラの箱を開けてしまった私たちを死滅させる巨大なバルサンか、ゴキジェットに見えます…。」

ふざけんじゃねえっつうの。バルサンさんとゴキジェットさんに謝れよ。
「穢れ」扱いしているのはてめえの方じゃねえか、藤波さん。
石原都知事とか城内実とかの「天の恵み」「天罰」発言と何も変わらねえんだよ、これは。

為政者とは責任の重さが異なるという考えはさておき、この藤波発言は石原慎太郎都知事の主張した「天罰」とは異なるだろう。天災を罰ととらえることと、人災を自業自得ととらえることは次元が異なる。地震とは別個に民主党政権の対策に問題があることは国民の自業自得という表現なら、石原都知事の天罰論にも問題はなかったという意見を実際にいくつか見かけた。
事故が起きた原子力発電所を「穢れ」と見なしていることには批判が必要だとしても、石原都知事と違って「地震」をきっかけとしてすら言及していないことは、気を配ってもいいのではないかと思う。

*1:もちろん選挙権だけが政治にかかわる手段ではなく、未成年でも社会運動を通して政治にうったえかけたりもできるが、大きく明確な境界線であることは考慮していい。

*2:http://ameblo.jp/cocoro2008/entry-10839026826.html

*3:ただし二酸化炭素や核廃棄物等と違って、技術の進歩による克服は可能だ。

*4:六本木ヒルズでは、独自のエネルギープラント(特定電気事業施設)により、域内の電力供給を行っています。当プラントは、都市ガスを燃料とするため、電気による電力制限の影響を受けることなく、極めて安定的な電力供給が可能です。このたびは、六本木ヒルズ(森ビル)の節電対応とともに各テナント企業や入居者の皆さまの節電協力も受けて、東京電力に電源提供いたします。」http://www.mori.co.jp/company/press/release/2011/03/20110317180000002146.html

*5:どちらも海水が冷却に必要で、燃料を輸入にたよっているので、単純に人口密集地かどうかだけで建設されているわけではないが。