法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ほしのこえ』/『彼女と彼女の猫』

新海誠監督『星を追う子ども』特集として、過去の監督作品がアニメ配信サイト「バンダイチャンネル」の特集ページで土曜日ごとに無料配信される。
http://www.b-ch.com/contents/feat_hoshi-o-kodomo/
その第一弾として、新海監督の存在を知らしめた自主制作アニメ2本が配信された。


改めて連続して見て、やはり後者は前者の原型かと思えるほど良く似ている。独白で進められる物語は世界観が狭いが、自主制作のため映像も声優もリソースが不足している前提をどうしても念頭においてしまい、むしろ手持ちのカードで巧みにしのいだと思わせる。
SF的に面白く、映像作品としても効果を上げていたのが敵の設定。地球の学生服を着たままロボットに乗って宇宙戦闘をくりひろげるほど少女本人が成長しない、個人の内面で静止した世界観。その少女の世界観に少年以外でふれた敵が、少女の姿を似せるだけでなく、幼いころと成長したころの姿をそれぞれ見せる。あえて同じ外見を持つことで、全く違う他者ということを浮き立たせる。同時に主人公の過去と未来を想像させ、ひいては少女に代表される人間全ての未来をも暗喩する*1
しかし人物が実質2人しか画面に登場しない不自然さはいかんともしがたい*2。特に少女の孤独さを映像的に成り立たせるため、国連軍に入りながら周囲の戦友が描かれないという無茶は寓話として見ても厳しいものがある。少女が中盤で敵に接触したことを受けて、周囲から隔離されたとか、せめて何らかの説得力を高める工夫はほしかったな。


荒いキャラクター作画が独特の質感を生んでおり、端麗で緻密な美術のリアリティと意外にマッチしている。カットごとの動きに密度が足りなくても、カット割りの呼吸でテンポが制御されており、きちんと映像作品として成り立っている。
3DCG戦闘は、当時にリアルタイムで進化の過程を見ていたものの、やはり過去作品の引き写しにとどまる。特にミサイルの軌道が触手としか見えず、全く板野サーカスらしさを感じさせない。広い空間は表現されているので異星の戦闘では楽しめた場面もあったが、良くも悪くも物語に奉仕する一部品として割り切られている。

*1:この場面の敵は、まさに自身の過去を根拠としながら、希望される地球人の未来像を語る。映像的な暗喩というだけではなく、SF物語として直喩している。

*2:少年が傘を渡す相手も、顔すら見えない記号にすぎない。