法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『まんが学特講 目からウロコの戦後まんが史』みなもと太郎/大塚英志共著

みなもと太郎の視点による日本マンガ史を聞き取っていく。大塚英志による雑誌『comic 新現実』で連載されていた企画をまとめ直したもの*1
マンガ家志望の落語家からゆずりうけた戦前のマンガ関係資料を読み込み、貸本マンガの読者として育ち、同人グループ出身でメジャー誌へ進出したみなもと太郎は、手塚治虫に端を発するトキワ荘史観とは異なるマンガ発展史を提示していく。マンガ作品だけではなくマンガ入門書にも目を配り、手塚治虫が提示したパーツ組み合わせによるキャラクター作成が戦前にも存在していたことなどを豊富な図版とともに指摘*2。これまでのマンガ史でとりこぼされてきた重要なマンガ家の再評価をうながしつつ、そのマンガ家の業界内でのふるまい*3や後続することの難しさ*4といったマンガ史からとりこぼされた原因そのものへの推察も行う。


とりあえず、善悪を超えたマンガの極北とされる『デビルマン』が当時のマンガ全体から見てむしろ少年マンガの原点回帰と考えられること、『アシュラ』も同じ雑誌で連載されていた作品と比べれば突出してはいないことといった指摘が印象に残った。
また、スポーツの勝敗を重視する古典的スポーツマンガから主人公の成長を描くビルドゥクスロマンへ連載中に移行していった『巨人の星』、そのビルドゥクスロマンから主人公が破滅へ突き進む内容へ変化していった『あしたのジョー*5、といった梶原一騎作品のマンガ発展史における重要性も得心がいく。
ただ、さいとうたかを作品が少女マンガから影響を受けているという指摘は興味深かったが、ホモフォビア的な笑いとともに語られていたことは、少しばかり気にかかった。

*1:おそらくは伊藤剛テヅカ・イズ・デッド』と重なるテーマだと思うが、未読なので比較できない。

*2:134頁前後。

*3:少女マンガに文学性やエロスを持ち込んだ西谷祥子は、同時代に少女マンガ雑誌が少ないこともあって競合を嫌い、絵柄を真似しようとする新人に対して直接的に批判していたという。217頁前後。

*4:トキワ荘の一員に数えられることもある水野英子は、背景等にまで力を注いでおり、絵柄が真似されにくかったそうだ。215頁。

*5:同じボクシングを題材とした映画『ロッキー』がアメリカンニューシネマの終焉を告げたことと好対照だ。