法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『大人女子のアニメタイム』川面を渡る風

NHK総合早朝0時15分から放映されたTVアニメSP。唯川恵の同名小説を原作として、現代を生きる女性が自己の立ち位置を確認するまでが描かれた物語。
TV番組パイロットを放映するNHKの「番組たまご」の一作品なので、評判によってはシリーズ化される可能性がある。
http://www.nhk.or.jp/tamago/program/20110107_doc.html

今、一番「物語」を求めているのは、大人の女性たち―。
人生の折り返し地点に立ち、ひとりの女性としてさらに輝きたいと模索している「大人女子」に贈る珠玉の物語。恋愛小説の名手・唯川恵さんの短編小説を、美しいアニメーション映像で綴ります。

【ものがたり】
金沢で生まれ育った乃里子は33歳。夫と4歳の息子と共に5年間の海外生活から帰国した。地方に埋没する平凡な人生を拒否した彼女は、東京の大学に進学し、就職し、エリート商社マンと結婚し、子供をもうけ・・・まさに思い描いた「幸福」を手にしたはずだった。しかし5年ぶりに帰郷した彼女は心に大きな空洞を抱えていた。
そんな彼女の頭から離れない一人の男がいる。指の美しいあの男…
乃里子は彼との間に大きな秘密を抱えている―。

制作はディズニーの下請け会社が独立したアンサースタジオ。他の日本アニメが描くリアルさとは少し異なる作画が面白い。影や毛を強調するのではなく、逆に影をなくして動きを見せるでもなく、フラットなキャラクターデザインを正確な骨格を意識して動かして現実感を出す。
実景を映像処理したり、3DCGを駆使した背景で金沢の実在感を出した手法も面白い。
和菓子職人の指先が物語上のポイントなので、アニメで描く意味もある。これが実写ならば適切な俳優を探すことが困難で、おそらくカットを割って手元だけ別人を用いたりする必要があるだろう。自動車の窓ガラスを開け閉めしたり、写真立てを動かしたりして、鏡面にキャラクターを映りこませる演出の多用も目を引いた。


ただ、いかんせん物語に私向けのフックが少なすぎた。今回の一作品だけなら珍品として味わうこともできるが、シリーズ化されても同様の方向性をつらぬかれると振り落とされそう。同じように大人女子を視聴対象に想定したTVアニメ枠「ノイタミナ」と比べて、あまりに物語の描く世界観が小さい。
何よりも、結婚直前にして微妙な感情を抱いていた青年と一夜だけともにする主人公への共感が難しい。感情の動きは理屈で理解できるものの、楽しみを見いだしずらかった。実際の大人女子はどう感じたのだろうか。
主人公と青年の学生時代の淡い関係は良い意味でジブリアニメ*1を思い出したし、和菓子作りは器用でも対人関係は不器用な青年が独立した後の葛藤や、尊敬していた姉すら平凡におさまっていった田舎から脱出しようともがく主人公の姿は悪くなかったのだが……


あと、働きながらがんばる女性が主人公で、しかも和菓子が重要なモチーフとして登場する展開に、思わず「スイーツ(笑)」という雑言を思い出してしまった。好きな言葉ではないのだが……

*1:真っ先にOVA海がきこえる』を思い出したので、純正なジブリアニメとは違うが。