法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ETVワイド』 ともに生きる 笑っていいかも

NHK教育で放送されている障碍者福祉番組『きらっといきる』内の企画「バリバラ」の、2時間拡大SP『笑っていいかも』。
身体的特徴を用いた「お笑い」を競う「SHOW−1グランプリ」や、バラエティ番組的な競技を行う「バリアフリー運動会」、障碍者ザブングル加藤へ無理難題を押しつける「障害者のドッキリ」といったコーナーを通して、様々な固定観念を崩していこうと問題提起していく。
http://www.nhk.or.jp/kira/post/info_101204.html
「SHOW−1グランプリ」に登場した聴覚障碍をネタにしたコンビ「炭水化物」は、よく見ると聴覚障碍は状況設定の一つにすぎず、メインのネタは肥満を相撲取りに見立てるという体型ネタだ。つまり、そもそも一般の民放で見られる「健常者」のお笑いも身体的特徴を笑いに使っているのではないか、という問いかけととらえることができる。
「炭水化物」には、相方のヘルパーがネタ進行を失敗して泣き出してしまい、障碍者が慰めて最初からネタをやり直すという局面もあった。この逆転は番組内でも改めて評される。さらに、別のコンビでも相方のヘルパーが眼鏡ネタを行うという形でも反復された。TV番組において、障碍と健常の線引きが恣意的になされていることを象徴する。
番組終盤のドッキリ企画も仕掛ける側に本当の障碍者がいるというだけで、基本的な構成は「健常者」のあわてぶりを笑うというもの。つまり他のドッキリ番組と違いがない。この障碍者のドッキリで笑っていいのかという問いは、健常者のドッキリで笑っていいのかという問いにも繋がる。


ただし番組自体は、あくまで他のバラエティ番組で見られるような企画を障碍者が演じたという企画を超えることがなく、それ以上の問題提起へ繋がらなかった。興味深く感じる場面が多々あったのに、あまり番組側で拾ってくれない。せいぜい、障碍を使って他人を笑わせたい人もいればそうでない人もいるという注意がされ、番組でコメントを求められた障碍者からも笑っていいかどうか意見が割れている姿が描かれたくらい。ゲストコメンテーターが芸人や構成作家だったためか、普通の「健常者」のお笑いは絶対視されたまま。障碍者のお笑いで意見が割れるならば、健常者のお笑いでも意見が割れることを念頭に置かなければ、真に枠を壊したとはいえない。
他には、障害学の教授が、現状では問題提起としての力があるが、続けようとすると笑いをとるため過激化が必要になっていくと指摘したことが印象に残ったくらいか。ここで少し民放批判も入っていたかな。
あと基本的に素人参加番組に近い上に、まだ番組制作者も手探りで作っているだろうからか、お笑いとして全体的にクオリティが低い。それでいて落語家のようなプロが混じっているため、競争としてもバランスが悪い。プロが定期的に活躍したためバラエティとして成り立ったのではあるが、あくまでグランプリには参加しないエキシビジョンでの登場であってほしかったところ。


昨年に放映された『きらっといきる』の自己検証的なSP番組『こんな福祉番組が見たいねん! きらっと改革委員会』が面白かったので、今回に期待しすぎたか。
『きらっと改革委員会』は、番組チーフプロデューサーや森達也監督*1が討論に参加し、過去の『きらっといきる』から海外TV番組における障碍者コント等を題材に、広い視野で映像表現論にまで踏みこみつつ番組の問題点から進むべき方向までを多角的に論じていた。
たとえば障碍者を健常者目線で美化していた過去のNHK福祉番組から、障碍以外にも様々な個性を持つ人間としてとらえ直した『きらっといきる』までの進歩を確認しつつ、今もまだ「感動」や「努力」に単純化する演出を脱しきれていないことを自己批判。美化の問題は番組タイトル時点で存在しているとも指摘された*2
『きらっと改革委員会』での、障碍者が主体となった番組を目指すという結論や、障碍者にも個々人には不謹慎な思想もありうるという思想から、「バリバラ」が生まれたのだと把握している。そうした流れから考えれば、今回の『笑っていいかも』が通常の「バリバラ」より表現として後退しているのも、あくまで普段は見ていない層へ問題提起を届けるためのSP番組として当然だったかもしれない。お笑い番組としてのつたなさ、掘り下げの少なさは不満だったが、第一弾としては評価するべきだろう。

*1:ちゃぶ台をひっくり返すような発言をたびたび行い、笑いをとりながら番組の視野を広げていき、やはりこういう番組では最も適役と感じた。

*2:番組全体の要約は、こちらのブログがくわしい。http://qazwsx.seesaa.net/article/112716391.html