法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

雁屋哲主張には疑問をおぼえることが少なくないが

ならば批判の多くに納得がいくかというと、それもまた違う。先日の「痛いニュース(ノ∀`) 」に対するはてなブックマークコメント*1もそうだった。
痛いニュース(ノ∀`) : 「尖閣衝突…まず日本は中国人2千万人虐殺謝罪しろ。尖閣に自衛隊?…日本がおかしくなる訳だ」…美味しんぼ・雁屋哲、のはてブがとてつもなく痛い件について(追記・訂正あり) - bogus-simotukareの日記

「2000万人殺戮」(雁屋氏は虐殺と書いてないのにバカウヨブクマが虐殺と読み替えていることに注意。雁屋氏のいう「殺戮」は虐殺に限定されないし要するに侵略戦争である以上、虐殺(捕虜の殺害などの違法殺害)でなくてもほめられた行為ではないと考えているのだろう。私も同感だ)は事実かどうかはともかくあり得ない話ではない。少なくとも調べもしないで「ありえない」と言うことが許されるほど不自然な数字ではない。まあ、バカウヨはてブつけてるバカは何のソースも上げてないので調べてなどいないのだろうが(私も面倒なので調べていないが)。

暇ができたので簡単に手持ちの情報だけ出すが、日中戦争における中国側犠牲者数説については、以前にscopedog氏がWikipedia記述を批判していたエントリで広範に調べられていた。
日中戦争における中国側犠牲者数の考察 - 誰かの妄想・はてなブログ版

(中国通信=東京)中国人民抗日戦争記念館のウェブサイトは、「抗日戦争期の中国の人口損失〈人的被害〉分布」と題する中国社会科学院近代史研究所副研究員の卞修躍氏の論文概要を載せた。卞氏はその中で、抗日戦争による直接の死者を2062万人、死傷者を最低3480万人と見積もっている。以下論文の内容を紹介する。

つまり、死亡、負傷障害、失踪などの人口損失を人口学的に推定した結果として5000万人と言っている。個別の用語に対する定義が記事だけでは判然としないのでこれ以上の評価はできないが、推計手法が異なっている以上、それまでと違う結果が出るのは別に不思議なことではなく、一々「捏造」とはしゃぐ方がどうかしていると言わざるを得ない。

あくまで一研究者の論文であり、紹介する説として必ずしも適切とは思わない。しかし事実として先行する説は確認できたので、「全部で2000万人とも言われる中国人を殺戮したこと」*2という雁屋氏の記述それ自体は誤りではないといえるだろう。
もっとも、雁屋氏本人は死者数と死傷数を混同して記憶している可能性を感じないでもない。犠牲者総数で見ると、初期から2000万人に近いデータが出されているからだ。

次に国共内戦中共の勝利で終結した後の調査結果であろう「1950年代 1000万 共産党政権発表」であるが、「中共抗日部隊発展史略」によると中共支配地域での死者数は約330万人。これに国民党軍戦死者・病死者・国民党支配地域の民間人死者を加算すれば、死者数で約950万人。東三省での死者を除いていることを考慮すれば、1950年代において、中共政府が日中戦争の死者を1000万人と発表したとしても、別に何もおかしな話ではない。
国民党政府の調査から漏れていたデータを加算しただけに過ぎない。これのどこが問題なのだろう。
ちなみに、国民党政府のデータだけでも「死傷者」とするなら軍民合計1230万人に達する。


さて、次は反中バカが示す2度目の中共発表なる「1970年 1800万 共産党政権発表」であるが、これも国府中共双方の軍民死傷者数*3を指すのであれば、合計約1860万人である。
1970年になって増やしたのではなく、単に負傷者・病死者・寡婦、孤児、身障者を含めるかどうかの解釈の違いに過ぎないで説明できる。

*3:寡婦、孤児、身障者の296万3582人を含める