法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ノー・マンズ・ランド』

ボスニア軍とセルビア軍、両陣地の中間にある無人塹壕。ひょんなことからその無人地帯へ取り残された数名の両軍兵士。彼らは間抜けに自分勝手に必死に生きのびようとするが、周囲を巻き込みながら事態はひたすら悪化していくばかり。
ユーゴスラビアで報道カメラマンとして活動していたダニス・タノヴィッチ監督の、初映画作品。2001年に公開され、カンヌ国際映画祭脚本賞等の様々な映画賞に輝いた。


上映時間が100分以内で、近年の戦争映画としては短めな内容。冗長にならず、よくまとまっている。
直接的な危機は地雷1つだけ、それをしかけた存在はすでに塹壕から消えている。しかし解除のしようがなく、かといって塹壕から去ることも難しく、残された兵士達は緊張した立場に置かれる。そして両軍兵士の立場がいれかわり続け緊張感を保ちながら、戦争をとりまく国連やメディアも登場しながら状況は混迷を増すばかりで、皮肉な結末にいたる。
会話は通じて共感する場面も少なからずありながら小さなきっかけで命をかけた衝突を始める塹壕の中。すでに戦闘が停止している牧歌的な草原に様々な思惑が入り乱れてディスコミュニケーションを生む塹壕の外。極めて狭い場所を中心とした騒動で、ボスニア紛争の縮図が描き出される。
ともすれば美化に繋がる悲劇ではなく、乾いた笑いを生む喜劇として戦場を描き、戦争の虚しさをよくあらわす。もともと限られた要素から物語を展開していく作品全般が好きということもあって、最後まで興味深く見ることができた。


あまり予算がある作品ではなさそうだが、舞台が限定されていることもあって粗が気になる場面はない。塹壕*1をしっかり作りこんで兵士の姿形にも気を配り*2、要所で大規模な砲撃や戦闘車両も映るので戦争映画としての満足感もあった。
1つだけ不満をいえば、落とし所の見当が途中でついてしまい、少し印象が弱く感じたくらいかな。もちろん映画の結末も状況として充分に後味が悪いので、変などんでん返しで奇をてらう必要はないとは思うが。

*1:しっかり塹壕を描写する映画は名作という、個人的なジンクスがある。

*2:ボスニア軍側が制服を着ていない描写などは、ユーゴスラビア紛争を肌で知っている監督の経験が反映しているそうだ。