法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

如月トウジは誰でしょう

『STAR DRIVER 輝きのタクト』第二話 綺羅星十字団の挑戦 - 法華狼の日記の続き。
たとえば下記コメント欄において東映時代の同僚で、別の場所で拘束されている演出家という話がある。
【審美眼に定評のある人急募】 - まっつねのアニメとか作画とか
しかし、あやふやな「通りすがり」の情報であるし、いったん棚に上げておく。


ここで、まだインターネットで探した中では誰も名前をあげていなかった錦織博という説をとなえてみる。榎戸洋司シリーズ構成という共通点で注目されている『忘却の旋律*1で監督をつとめ、『少女革命ウテナ』では五十嵐監督とともにローテ演出家として活躍した一人だ。
まず、前半における主人公と敵対者のカット割り。緊張感を出すべき会話で単純に切り返し、顔アップが連続するコンテは、最近のビジュアルにこだわったアニメでは珍しい。決める場面でこそカメラを引いてキャラクターの全身を映したり、背景の奥行きを見せたりするカットが常道。こんなにカメラを近づけるのは、最近の映像にこだわる演出家では錦織博くらいだろう。
逆に、ある程度まで友好的になった相手との会話ではカメラを引いているが、これもまた錦織演出らしさを感じる。特に、中盤の演劇部や、終盤の外食のように、別のことを同時にしながら言葉をかわしていく描写が錦織作品に多い。腹をわってオープンカフェで会話する描写は『忘却の旋律』第2話にもある。
ロボット戦闘はアニメーターの意図が介在していそうだし、バンクも多そうなので、これといって錦織演出らしいとはいえない。ただ、敵に向かっていく時間を引きのばしてでも長台詞をはく描写に、良くも悪くも錦織らしさを感じないでもない。最近に手がけた『とある魔術の禁書目録』では不評だった。
文字演出も、文字が武器になる『天保異聞 妖奇士』という作品を『輝きのタクト』と同じくMBS放映BONES制作で監督したばかり。佐藤順一は、最近では「うごメモ」のように文字を動かす場合が多く、文字を止めていたのは『ケロロ軍曹』くらいまで。他にも文字演出を用いる演出家はいるのだし、文字演出だけで佐藤順一とはいえない。
演出以外の要素でいうと、敵がバイクというモチーフであるところは、『忘却の旋律』の「メロスの戦士」を自己パロディしたようにも感じる。BONESで複数の作品を手がけ、五十嵐監督とも榎戸シリーズ構成とも仕事をしたことが複数あり、登板可能性は充分にある。それでいて現在は別のTVアニメを監督中で、しかも先述した『妖奇士』の売れ行きも思わしくなかったことから、偽名を用いる動機もある。……もっとも、かつて3本のTVアニメを同時に監督したこともあったので、あえて偽名を使うことはないような気もする。やっぱり佐藤順一かなあ。


でも、こういう時には有名な演出家の名前ばかり出てくるが、実名での仕事は誰も知らないような目立たない演出家が外部で冒険していただけだったり、単に新人が登板しただけだったりすることもよくある。
たとえば米谷良知監督が『勇者王ガオガイガー』を手がけた時、すでに『ふしぎの海のナディア』等でマニアが目にする仕事もしてたのに、「米たにヨシトモ」という表記を用いたこともあってか、一部で偽名と疑われていた。如月トウジの場合も、わりとそういう真実なのかもしれない。

*1:個人的には1エピソードに3話もかける展開の遅さが嫌だった。比べると、きちんと1話ごとに直面した敵を倒していく『輝きのタクト』はテンポがいい。