こんなことをわざわざ書かなきゃならないのか。また無駄な時間をすごしてしまった。
まず最初に『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』という小説のTVアニメ化作品において、成年向けエロゲーム*1を未成年が楽しむ姿が描かれ、批判されたという話を紹介する。
18禁を未成年がプレイするシーンが登場する作品に、エロゲメーカーが協力することの是非 - Togetter
そういう描写自体は初めてというわけではなく、はるかに話題作だったTVアニメ『らき☆すた』でも主人公の少女がエロゲーを普段から遊んでいる描写があった。今回の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』が少し特殊なのは、複数のエロゲーメイカーが協力してパッケージ絵の作中使用を許可している点であり、それをアニメ雑誌等で仕事をしているライターという業界関係者が問題視したことで話題が広がった*2。
個人的には、パッケージ使用許可くらいで放映前の作中描写を完全に把握できるとは思えないし、『デュラララ！』や『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』のように作中描写が現実とは無関係であるとテロップ一つ示せば充分だと思う*3。主人公の少年は確かに未成年のエロゲー使用をとがめないが、家族内での話ではあるし、相手と心理的な距離も持っていた。しかも最初にエロゲーの存在を知った場面では否定的なニュアンスがある台詞をはく。エロゲーの入手経緯も第1話では描かれず、ゾーニングの甘さが肯定的に描かれているとも断言しにくい。
あくまで業界内部で語られるべき危機意識をインターネット上で言及したため、予想外な波及をしてしまったのではないかといったところではないだろうかと思う。
ここで、業界内の自主規制という建前を破った描写に許可を出したことで表現規制を活気づかせかねないという論理が、表現規制の内面化ではないかという議論が起きた。世間と同意権ではないそぶりをしながら世間に隠れて自分の主張を通そうとする、いわゆる世間を代弁して利用する「太宰メソッド」というやつだ。
しかし話題の発端であるid:mae-9氏はTVアニメ作品を批判しているわけではないし、あくまで業界関係者という当事者の立場を表に出して「世間」を持ち出し業界一部の批判をしている。世間に隠れて主張することとは少し違うだろう。
この件には図書館が利用者情報をもらす小説描写へ神経をとがらせることを思い出した。たとえば図書館を舞台とした短編推理小説シリーズが収録された法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』に、利用者情報を図書館関係者が名探偵へもらす描写がある。その描写をめぐって「図書館の自由」について説明した作者自身による解説が、文庫版巻末に収録されていた。比べてみると、ずっと穏健な自主規制論争におさまっている。
私は原作小説を未見であり、これ以上の主張は一般論としても難しい。気にかかったのは、はてなブックマークで見かけたid:Midas氏の意見だ。
はてなブックマーク - ねこねこブログ : konkon1986と名乗る人物が、言ってもないことの捏造して非難してきて、ひどく気分が悪いです…。 - livedoor Blog（ブログ）
Midas 最悪の表現規制←その通り。私はそうでないがその様に考える人がいる。この「私」も実際は「そう考えてる」と同じ。こういう無自覚な規制派が1番悪質(私は代替医療を信じてないが代替医療を信じてる人がいる、も一緒 2010/10/06
批判するために意見を要約することと、代弁した意見に責任転嫁することの区別がつかないらしい。Midas氏が同意している当のエントリが、誤った要約で批判することに対して「突然、言ってもないこと、全く僕の意に反することを勝手に捏造して非難してきて、ひどく気分が悪いです…」と反論している内容なのに、気づいていないのだろうか。
そして、かつてMidas氏は「シャーマニズムはホメオパシーではない。正確にはホメオパシーとアロパシーの混淆」と主張したことがある。
はてなブックマーク - 沖縄じゃ別におかしくもなんともない。 - 風のはて
Midas 議論が雑。エントリ主はシャーマニズムを誤解してる。私は学派上「集団ヒステリー」というタームは使用しないが、シャーマニズムはホメオパシーではない。正確にはホメオパシーとアロパシーの混淆。後者は男根のこと 2008/11/02
代替医療を評するにあたって、Midas氏こそが積極的に代替医療の言葉を用いていた。
ついでに、Midas氏は最近になってホメオパシー批判とシャーマニズム弾圧を同じと見なす発言をしていることを、再び紹介しておこう*4。
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100921/1285087851
Midas バカ勢ぞろい, ああ勘違い ↓お前らのやってる事は明治になって近代化を唱えるバカどもがユタやノロを始めとする沖縄のシャーマニズムを弾圧したのと同じ。恥を知れ。今すぐ民族浄化をやめよ
なお、上記のようにMidas氏が代替医療批判を指して「沖縄のシャーマニズムを弾圧したのと同じ」「民族浄化」と呼んだエントリは、琉球文化を批判していたわけでは全くないことを注意しておく。
琉球大医学部のホメオパシーの講義に使われた(と思われる)教科書を読む - Not so open-minded that our brains drop out.
「琉球大医学部のホメオパシーの講義に使われた(と思われる)教科書を読む」というタイトルをよく読めばわかるように、琉球大学の講義を批判対象としているのではなく、講義に使われた教科書を批判対象としたエントリだ。念のため、当該の教科書は沖縄で作られたわけでも、沖縄でしか流通していないわけでもない。
順序としても、琉球大学で医学を学ぶ場に、医学を否定するホメオパシーが後から入り込んだという解釈が正しい。つまり沖縄で先に存在した思想を否定しているのは、やはりホメオパシーの側なのだ。
