法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『デジモンクロスウォーズ』第10話 タイキ、騎士になる!/第11話 クロスハート、燃える!

AKB48の声優挑戦と視聴者プレゼントが売りの1時間SP。予想外の傑作回。ただ2話分を繋げただけのテコ入れSPかと思っていたが、もともと連続性の高い2話だったらしく、物語としてまとまりが良かった。


第10話では、多対多の総力戦をテンポ良く描く。各勢力の思惑が交差しつつも破綻せず、複雑な状況をよくさばいて見せていた。地形や各デジモンの能力を活かした作戦が互いに行なわれ、戦いに緊張感があるのは第11話も同様。この作品で三条陸脚本の良さが最も出ていると思う。あまり作画リソースは足りていないように感じたが、演出を担当した三塚雅人の見せ方がうまくて破綻していない。一面にデジモンが展開されたカット等は地味にレイアウトも良かった。
第11話では、主人公タイキが新たな力をえて復活するまでの爽快感ある展開を、これまで戦闘で活躍できなかった少女アカリの鬱屈と重ね合わせるように描く。少女の細やかな表情芝居と、直接的に見せないことで恐怖を煽る描写は、演出を担当した貝澤幸男の得意とするところ。クライマックスの心情吐露で、アカリがタイキ一人へ告白しているのに対し、あくまでタイキは大切な仲間として呼びかけている微妙なディスコミュニケーションも良い意味で甘酸っぱかった。
作画にも力が入っている。第11話は竹田欣弘作画監督らしい肉感的な濃い絵柄で、アカリが嫉妬するバステモンの可愛らしさを説得力ある映像として提示。先述したアカリの表情芝居も細やかに描き、演出を支えていた。
さらに、たぶん今作では初めて本編作画に冨田与四一が参加。後編のクライマックス戦闘で印象的なアクションを見せてくれた。BL影*1と透過光*2と直線*3で構成されたシルエットがメリハリある動きをする作画は、晩年の金田伊功を思わせる*4。アニメ業界から離れていたこともあって晩年の金田作画を追随するアニメーターは少なく、似ていることは偶然としても後継者は冨田与四一ただ一人かもしれない。


新登場キャラクターを手際良く特徴づけながら、既存キャラクターを掘り下げるという観点からも、今回のSPは良い出来だった。
先述したアカリの鬱屈は、別の仲間であるゼンジロウや、新たな仲間デジモンのナイトモン達が活躍する描写があってこそ説得力ある。逆にいえば、ゼンジロウや新デジモンの描写も対比表現としてしっかり入っている。
「ほっとけない」というタイキの口癖が幼少期の後悔から始まっているという回想も、ベタではあるが説得力あった。そして後悔描写はいったん明るく流し、現在は「トラウマ」にとどまらない共感意識を持っていることを第11話で描き、きっかけは後悔でも現在の正義感が本物であることを描き出す。
主人公のライバルであるキリハが、第10話で敵の陽動作戦に引っかかったところは弱体化かと思わせたが、仲間が少なくて作戦に選択肢が少なかったと考えれば、主人公側との良い対比になっている。実際に仲間が少ない問題は第11話の結末で指摘され、キリハ側に協力する勢力が出てきて次回へ引く。主人公の踏み台で終わらせず、脇役側の物語も動かせ続け、キャラクターを記号で終わらせない。
AKB48が声優挑戦したバステモンは寝てばかりのキャラクターで、抑揚のない演技が不自然でなくなる設定がうまい、というかずるい。意外と滑舌も悪くないし、吐息のようなアニメ声優独特の演技もできている。以前に言及したように*5声優初挑戦ではないどころかTVアニメのレギュラー声優までつとめた経験が生きているのかな。逆にいうとバステモンは活躍らしい活躍はしていないのだが、キリハをふりまわしアカリにやきもちを焼かせるという立ち位置で、出番こそ少なくても印象的に機能していた。

*1:場面ごとの光量をリアルに反映せず、真っ黒にペイントされた影のこと。

*2:セルアニメで光を表現する技法。現在はデジタルで再現している。

*3:金田伊功は実際に雲形定規と普通の定規を駆使して作画していた。ただし私は冨田与四一作画に定規が用いられているかは知らない。

*4:末端が肥大した広角レンズ風味で作画するところも似ている。

*5:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100817/1282104671