法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハートキャッチプリキュア!』第18話 最強伝説!番長登場、ヨロシクです!!

いやこれ番長の話ではなくて、島本和彦的な燃えるマンガ家をアニメで描いた、パロディ回ではないか。児童向けマンガでも案外とマンガ家を題材とした作品があるから、視聴者に理解できない内輪受けというほどではないが……
まったくもってテレスコステレンスットンキョウな展開で、細かくつっこんでいったらキリがない。番長という誤解*1、マンガ制作に紛れ込む妖精達*2、母がマンガを認めてくれないと思う息子*3……様々な形で反復されるディスコミュニケーションも、日常に引きつけて視聴者へ考えさせるというより、典型的なギャグの構図として利用される。実家が裕福でないとマンガ家や小説家を続けるのは大変だ、みたいな深読みするのは余計なことなのだろう。
ただ、途中の図書館でクモジャキーが顔を見せずに画面を横切る前振りは、映像の伏線として良かった。構成を真面目に考えれば当然の描写とはいえ、『プリキュア』シリーズの敵行動は基本的に脈絡ないからな……


墓場鬼太郎シリーズディレクターもつとめた地岡公俊が演出を担当。『プリキュア』シリーズに関わるのは初めてか。
最近の担当演出でいえば『ゲゲゲの鬼太郎』5期の後期OPで見られたように、若手らしく多様な手法でアイディアたっぷりの映像で楽しませてくれるところが特長。同じようにアイディアたっぷりな松本理恵演出との違いは、無駄を排して全体を一定の趣向で統一するわけではなく、イメージ喚起力を求めて貪欲に詰め込んでいくところ。実際、イメージ的な演出が少なくて構図で演出の変化をつけようとする今シリーズにおいて、今回ほど多様な表現を用いた例はない。
映像内マンガはリアルなラフさがあるネーム、それを背景として登場人物が内容を講釈、主人公達がマンガの続きを即興で演じるとカラーのマンガとして描かれる……人物の立ち位置から物語の方向性まで変化を続ける今回、場面ごとに異なる語り口を用いることで逆に理解しやすくなっているところが面白い。
また、怪物化した番長が狂乱している姿をシルエットで描く演出には情感があり、いつも通りに真面目なプリキュアの口上へ繋げる効果があった。
細かいところでは、変身バンクが微妙に短い……どうやら早回ししていたらしいのは、正直バンクに飽きてきたところに変化をつける策として嬉しかった。もっとも、主要な視聴対象である女児は変身バンクをしっかり見たいそうだが。


作画は青山充の一人原画。雑誌『アニメージュ』のコラム「この人に話を聞きたい」で登場した時*4、『おジャ魔女どれみ』シリーズや『プリキュア』今シリーズのようなシンプル馬越デザインが不得意という話をしていたが、それが謙遜としか思えないほど特徴をとらえている*5
逆に当該コラムでは、本来の青山作画は濃い画風であり、男性キャラクターが得意ではないかと聞き手に指摘され、青山氏も認めていた。少女アニメ担当暦が長く、速さが要求される一人原画が多いために誤解されがちだが、本来は肉感的な画風なのだ。男臭さを形にしたようなキャラクターが多い今回は、まさに適役といえる。つぼみがアシスタントを失敗した時の濃い影も、コラムを念頭に置けば青山氏らしい仕事かもしれない。

*1:花を乱暴に扱っただけでBIG大番長をにらみつけられるなら、胆力が人並み外れているのは事実だと思うが、作中で誰もつっこまない……

*2:ぬいぐるみのふりをして生気が抜けた姿を演じたかと思えば、カーテンの後ろで必死な姿を見せる。自業自得気味に短時間で様々な困難へ直面する様子がギャグとして楽しい。

*3:ここのドラマをあっさり思い違いで終わらせた時点で、今回が良い意味で深みのないギャグ話になることが確定した。普段の今シリーズなら、もう少し予想外かつ前面ではない解決にいたるところ。

*4:コラムを担当している『アニメスタイル』編集長自身のコラム紹介はこちら。http://animesama.cocolog-nifty.com/animestyle/2010/04/post-36bb.html

*5:TV本編では初参加、劇場版で手がけた時期はTV本編が未完成でイメージがとらえきれなかったとのことだから、総作画監督修正が入っている可能性はあるが。