法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『マージナル』神崎紫電著

第一回小学館ライトノベル大賞を受賞したサイコサスペンス。
主人公の少年は、クローズドなアングラサイトを主催していた。そして入会を求めてきた者とチャットを行い、提示された死体写真から相手が巷を騒がせている連続殺人犯と気づく。写真から気づいたことを材料に、互いに互いの正体探しを始める。闇に魅入られた者の矜持と、自らの生命を賭けて。
写真に写っていた死者の葬儀に出た主人公は、被害者の妹と接触する。妹やアングラサイトの住人を駒にして、主人公は連続殺人犯とのゲームを始めるが……


教科書通りのサイコサスペンスで、主人公が一般人と凶悪犯の「マージナル」になった幼児期の出来事から、連続殺人犯と情報交換してからの展開も悪くない意味で予想がついた。突き抜けたものがないかわりにまとまっていて、良くも悪くも新人の第一作らしくない。
しかし人気のアングラサイトを主催し、頭脳派として描かれていたはずの主人公が、下級生とのやりとりで常識知らずを露呈する上、妹の安否を確かめようとして2階の窓をのぞきこむ頭の悪さはいただけない。悪い意味でライトノベルらしい軽さだ。連続殺人犯のあからさまな罠にひっかかる場面は、感情的になる経緯をそれなりに描いているので納得できるのだが。


以下はネタバレをふくむ話。
まず、登場人物が少なく、主人公達との因縁が描写されているため、事件の背後に隠れた犯人については見当をつけやすい。しかし伏線はそれなりにはられていて、サスペンスとしては必要十分などんでん返しだと思う。ただし、心理的な伏線となる因縁が未整理で、両面性を持つ主人公と両面性を持つ犯人という面白い構図が、犯人が安易に敗北する御都合主義に見えてしまうところが残念。
先述した2階の窓をのぞく場面についてだが、実は妹の下着姿をのぞくサービスシーンの裏に伏線をはっていたミスディレクションは悪くない。しかし他に方法はあったのではないかとも思う。少なくとも2階建てにせず、庭にまわりこんだ主人公がたまたま目撃したという描写でも、伏線として機能したはず。
あと、主人公の高校生としての日常に力が注がれ、正体探しのゲームがほとんど描かれないところも、個人的には残念だった。妹との会話で、自称通りに主人公がマージナルな存在となる展開を重視した意味もわかるが、もっと互いに相手のしぼりこみをしておけば、結末にも納得と驚きが生まれたはず。